◆福島 忠徳(フクシマ タダノリ)
スカパーJSAT(株) デブリ除去プロジェクト プロジェクトリーダー
(国研)理化学研究所 衛星姿勢軌道制御レーザ開発研究チーム チームリーダー。
都立科学技術大学大学院航空宇宙工学専攻(現東京都立大学大学院)
スカパーJSAT(株) 衛星運用部にて,静止衛星の定常(異常)運用,
運用準備,軌道運用等を実施,また小型低軌道衛星の地上運用設計を経験。
宇宙ごみ問題を解決するための新規事業を立案,
フィージビリティスタディを実施し,衛星設計開発に着手する。
◆津野 克彦(ツノ カツヒコ)
(国研)理化学研究所 衛星姿勢軌道制御用レーザー開発研究チームテクニカルスタッフ1
大阪大学理学部卒,大阪大学大学院理学研究科前期課程修了,理学修士。
後期課程単位修得後退学。
大学院では,X線天文学を専攻し,観測ロケットの観測機器を開発し観測を行なう。
その後,㈱東芝宇宙開発事業部に入社し,衛星搭載用光学観測機器の開発に従事。
その後,NECを経て,(国研)理化学研究所に移り現職。
国立極地研究所と超高層大気のライダー観測の共同研究を行なう。
2018年まで国立境地研究所特任准教授。
30以上の衛星プロジェクトにかかわった経験を活かし,本年6月より衛星搭載を目指した現チームに参加。
打ち上げ技術の向上や民間企業の参入などにより,人工衛星ビジネスが大きな注目を集めているが,宇宙開発が本格化した1950年代以来,地球の周囲には人工衛星の打ち上げなどに伴う大量のごみが増え続けており,こうした気運に支障をきたす事態となっている。
これに対し,今年の6月11日,衛星通信による有料放送事業を行なうスカパーJSATは理研らと共に,宇宙ごみをレーザーで除去する人工衛星を開発すると表明した。
今回,その概要と技術的な詳細について,スカパーJSATの福島忠徳氏と理研の津野克彦氏に話を伺った。
─宇宙ごみの除去に乗り出した経緯を教えてください
(福島)スカパーJSATは30年くらい衛星を使ってビジネスをしてきましたが,特にここ数年,宇宙ごみについてニュースでも取り上げられるようになってきました。私自身,衛星運用業務に14年携わっており,実際に衛星を運用する中で,宇宙ごみの接近を知らせるアラートが出る場面もありました。
静止衛星はそこまで接近アラートの回数は多くないのですが,低軌道の衛星では桁違いの接近アラートを受領していると,ある低軌道の事業者から聞いたことを覚えています。それらの接近情報は地上の観測網から特定され,今は10 cm程度の宇宙ごみが登録されていますが,数年後に数cmまで観測されるようになると,アラートの数がさらに増え,アラートを受けてもよける場所がないということにもなりかねません。また最近はメガコンステレーションといった数千~数万機の衛星を打ち上げる計画もありますので,特に低軌道は混雑してくるでしょう。
その宇宙ごみに対して色々な企業がアプローチをしているのを見て,宇宙空間をビジネスフィールドとしてきた我々としても何か取り組むべきことがあるのではと思い,いろいろ調べてみました。するとレーザーを使えば,今まで考えられていた方法と比較して,効率的,低コスト,かつ安全に宇宙ごみに対処できそうなことがわかりました。ちょうど当社が新規事業を開拓していたこともあったので,SDGsという側面からも,ビジネスと環境問題を一緒に解決できるプログラムだと思って取り組みはじめました。
─宇宙ごみの現状はどうでしょうか
(福島)例えば地球から数百kmくらいの距離で軌道がわかる宇宙ごみは10 cmくらいの大きさと言われています。それよりも大きいサイズで,かつトラッキングされている宇宙ごみは3万4000 個くらいあります。ガラスを落とすと大小の破片に割れるように,宇宙ごみは衝突や自己破壊などでどんどん増えています。
そういった中で1~10 cmくらいの小さい宇宙ごみは90万個くらい,1 mmよりも大きいもので1億個以上あると言われていて,もちろん,さらに小さいものもあります。1 mm以上のものが人工衛星にぶつかると,当たり所によってはその衛星のミッションが終了するほどの破壊力があります※。
※ (参考)ESA HP https://www.esa.int/Safety_Security/Space_Debris/Space_debris_by_the_numbers
今進めている計画は,少し大きな宇宙ごみを狙ったものです。例えば100 kg,200 kgといったサイズだと,まずは取りやすいですし,除去の需要もあると考えています。具体的には衛星コンステレーションを構築しようとしているような国や企業に,こうした需要があると思っています。