─海外のレーザーを用いた宇宙ごみ対策技術の動向を教えてください
(津野)私が調べた範囲では,衛星にレーザーを積むという計画はありませんが,その昔,NASAが口径6 mの望遠鏡に100 kWくらいのパルスレーザーを付けて,地上から低軌道のデブリを同じように減速させて落とす計画をしています。ただし,技術的なハードルが高く,実現はしていません。
(福島)公式的に計画しているところはないと思います。学会などでレーザーでデブリを落とす研究はいろいろとされていますが,机上でそういうことができるんじ ゃないかと言う人がいても,それを実際にやるぞという人はいません。
─競合する技術や計画を教えてください
(福島)宇宙ごみを除去する技術で実用化されているものはありません。皆,技術検証のフェーズにいる状況です。いろんな技術が検討されていて,私がニュースで見たのは,日本で一番有名なアストロスケールさんの磁石を使った宇宙ごみの捕獲技術で,今年軌道上実証実験を予定しているようです。こちらも報道からの情報ですが,スイス連邦工科大学ローザンヌ校からスピンオフしたClearSpaceという会社は,ESA(欧州宇宙機関)の予算を取って,2025年に軌道上実証を始めます。この会社の技術は,ロボットアームのようなもので宇宙ごみを捕まえるというものです。ちょっと変わったところでは,銛で突いたり,網を投げたりして宇宙ごみを捕まえて,一緒に落ちるというものもあります(編集部注:英Surrey Satellite Technology は2018 年9月,衛星軌道上で網による超小型衛星の捕獲実験に成功している)。
─実現に向けた課題にはどういったものがありますか?
(津野)技術的に決定的な障害はないと思っていますが,こういうものはどこかでつまずく可能性があるので,それをいかに早く見つけて取り除くかということです。特に地上ではごく普通に使われている観測機器でも衛星用に設計しなおすと問題が出てきます。それでもだいたいの問題は解決できますが,限られた時間の中でそれをどうやるかということです。
(福島)技術的な課題は津野さんの話されたことに加えて,小型化の課題がありますね。これは実はビジネスサイドの課題と直結します。「技術はできたけど大きくなって,高くなっちゃいました」ではダメで,リーズナブルでないといけないという最後のハードルです。コストを抑えつつ,どこまでできるのかというトレードオフが,すごく難しいところです。
─宇宙産業に興味を持っている会社にアドバイスをお願いします
(津野)私の経験では,宇宙で使いたいと言ったら,喜んで協力してくれる会社がある反面,宇宙では使わないでほしいという言われることもけっこうあります。そんなに難しいことをするわけではないのですが(笑)。ただし,何かものが壊れた,不具合が起きましたというとき,なぜそうなった,なぜ起きたのかということを突き止められるように,品質管理として工程記録のようなものがある程度残ってないといけません。そういうことに応じていただけるところであれば,基本的には技術を持ったところは使わせてもらう予定です。
(月刊OPTRONICS 2020年10月号)