─先ほど,光触媒による感染症対策も触れていただきました
これも自作したもので,可視光線に高効率で応答する三酸化タングステン系の光触媒を使用し,空気中のエアロゾルに含まれるウイルスの不活化だけでなく,悪臭,花粉などを分解する装置『コロナクリーナー』を開発しました。
光触媒に光を当てて風を送るという単純な機構で,一般的な超高輝度LEDを複数個搭載しています。壁に塗布するなどで知られている光触媒は二酸化チタン系ですが,三酸化タングステンという材料は,可視光線で数十倍の光触媒活性を示します。それを製品化されている東芝の『ルネキャット』をコロナクリーナーでは採用しています。開発したコロナクリーナーは,累計で650個以上を提供していて,主に飲食店や歯科医,理髪店などで使っていただいています。もちろん,「これだけで絶対に大丈夫」ということはありませんが,少しでも感染リスクの軽減に協力ができればと思っています。
実証試験も行ないました。一つは色素分解の確認です。光触媒の試験法で,メチレンブルーという色素を用いる測定がJISで規定されています。我々はそれに即し,メチレンブルーを10 mg / Lに希釈して,フィルターにスプレーし,LEDからフィルターの距離が20 mmの標準構成のコロナクリーナーと,スペーサーを挟んで距離を73mmに変えた場合での比較を行ないました。その結果,光量の強弱によって色素の分解速度に差が出ることがわかりました。わずか数十mgの色素分解ですので,これをウイルスの重さに換算すると,1億個程度が分解できることになります。
一回のくしゃみで撒き散らされるのが200万個程度で,咳や会話でしたら,それよりも何桁も下がりますから,順次空気を送り込んであげて,ウイルスを接触させてあげれば,十分に不活化できる計算になります。
ただ,市販の空気清浄機と比べると,まだまだ性能は不十分でしたので,さらに検討を進め,神奈川県産業技術総合研究所で有機ガス分解測定を行ないました。当初は濃度の高いガスを入れたため,全く分解されずにがっかりしました(笑)。計算では,その濃度はウイルスに換算すると,ありえないくらいの量だということが分かりましたので,現在,少し現実的な量で行なう測定を行なっており,現在の製品では市販の小型空気清浄機と遜色の無い性能と評価されています。
コロナクリーナーではエアロゾルに対する対応になりますが,実際には接触感染が多いのではないかと思います。ものに触れて感染するとなると,机や椅子,電気のスイッチカバーなどに光触媒を塗布してあげるというのも考えられます。しかし,塗布しても流れてしまっては意味がありませんので,しっかりとコーティングできるものを開発する必要があります。これに関してはすでに特許も取得され,開発を進めていらっしゃる会社があります。ウイルスの不活化の有効性も含めて色々と検討をされて開発が進められています。
いずれにしましても,UVや光触媒を用いて複合的に対処することによって,感染のリスクを少しでも下げていくことが非常に大事なことだと思っています。
─今後の研究・開発の方向性について,お聞かせください
まずはUV-Cに関して,新型コロナウイルスに対して,実際にどれくらい効果があるのかを定量的に評価していきたいと思っています。1 cm2あたり何ジュール照射すると何%不活化するかという定量的なデータの相関をきちんと得ることです。それだけではなく,インフルエンザウイルス,大腸菌,バクテリアファージといった既に得られているデータとの比較も進め,そのデータが妥当か否かを検証していきたいと考えています。また, UV-Bも進めたいと思っています。
もう一つは,先ほど述べたUVシャワーゲートの開発を進めていきます。照射量や照射の方向,不活化のデータをチェックしながら,オペレーションをしっかりと定義し,安全に使用できる装置の実現を目指します。
光触媒に関しても,ウイルスの効果を検証していきたいと思っています。その効果の検証の難しいところは,個体に光を照射するのとは異なり,粒子に対してですので,布の上にウイルスをどのように引っ付けて,それをどう回収するかという課題があります。この解決にむけては,神奈川県産業技術総合研究所やバイオ分野の方々の協力を得ながら検証を進めていければと思っています。さらに,コロナクリーナーを改良していきます。実は,この装置を一般向けに販売していくという話も進んでいます。そのためには,既存の空気清浄機と同レベルの性能に引き上げたいと考えています。
(月刊OPTRONICS 2020年9月号)