─それぞれ開発された製品を紹介いただけますか?
まずUVについて,最初に作ったのは『マスクリーン』というマスクの滅菌用ボックスです。これは箱の中にUV-C殺菌灯を搭載し,密閉した中でマスクを滅菌処理するものですが,光が外に漏れないようにしているのと,アルミでコーティングすることでUV光を反射させ,光を無駄なく使用することを図っています。
当初自作したのは,13ℓのコンテナボックスを使用したもので,このボックスの中に4枚のマスクが入るようにするため,間に仕切りを設けました。仕切りは普通の板にしてしまうと,光が通らなくなってしまうので,メ ッシュで仕切りを設けました。
採用したUVランプの出力は8 Wです。照射量と照射距離の評価には,紫外線や放射線が当たると色が変化するラジオクロミックフィルムを使い,マスクをあらゆるポイントで評価しました。ランプから距離が遠い箇所は照射量が落ちるのですが,ほとんどのポイントで20秒の照射で1万分の1まで不活化されることが確認できました。
4枚のマスクの滅菌処理ボックスは教育機関や医療機関向けに開発したものですが,個人向けには1枚のマスクを滅菌処理するボックスも開発しています。個人向けは6 WのUVランプを搭載しています。ランプを中心に配置し,距離も近いものですから,5秒間の照射で1万分の1まで不活化することができます。これらは無償で提供してきましたが,開発にあたってはユーザーさんからのフィードバックをいただきながら改良していきました。
最近開発したものでは,『手先用不活化ボックス』があります。感染症の患者さんを受け入れられている医療機関向けに開発したもので,ゴム手袋をしたままの状態で,ゴム手袋の表面に付着したウイルスを滅菌するものです。実は,こうしたゴム手袋や防護服は脱衣時が一番危険なんです。我々は放射性物質を扱うことがあるので,汚染を防ぐためにも,脱衣のオペレーションにはものすごく気を使います。これを理解していたので,それを改善することで感染リスクがかなり避けられると思いました。
このボックスでは,可能な限り素早く滅菌処理が行なえるように,手のひらと手の甲の両側に対して一度に照射を可能にするため,2本のUVランプを搭載しています。フットスイッチで操作ができる設計にもなっています。製品名を「Raise Your Hands IN Me」と名付けましたが,この製品も5秒間の照射で1万分の1まで不活化できます。
この6月に,日本医療研究開発機構(AMED)の『ウイルス等感染症対策技術開発事業』で,『感染症指定医療機関に於けるUV-C殺菌灯及び可視光応答光触媒を用いた感染リスク低減に関する研究開発』が採択されました。いくつかの研究テーマを挙げていますが,まずは全身に対応するもので,UV-Cによるシャワーゲートの開発を進めていきます。医療現場ではこのニーズが多いようです。
─今後,感染防止に関わる研究開発を進めるにあたって, UV-LEDを採用することもお考えでしょうか?
加えて,殺菌灯とLEDとを比較してウイルスの不活化の有効性に違いがあるのかについてお聞かせいただけますか?
岩崎電気さんのWEBサイトに掲載されていた紫外線の殺菌・不活化に関する説明の中のグラフを例に説明したいと思います。掲載されているのは,遺伝子(DNA)に対する吸収率を横軸波長でとったグラフです。それによると,一番殺菌効果が高いのは260 nm。殺菌灯ではそれよりも少し短い254 nmがベストなところにあります。 254 nmのLEDもあるようですが,市販されているのは270 nm帯が多いです。この波長帯では260 nm帯に比べて少し効率が落ちるのが見て分かります。
しかし,殺菌灯とLEDのどちらが良いかと言えば,やはりLEDの方が良いです。なぜなら,LEDは一個あたりの出力が低いとしても複数個を並べることで出力を上げることができ,表裏に配置して全面を一度に不活化処理ができるからです。ですので,LEDでこのメリットを活かすことができればと思いますが,そのためには低コスト化が望まれます。