─人工網膜はどのように目に入れるのですか?
(松尾)アメリカの人工網膜より手術が簡単で,硝子体手術という網膜剝離などで一般的に行なわれている手術で入れることができます。網膜の裏に水を入れて人工的に網膜剝離を作り,網膜の裏側に人工網膜を入れます。この人工網膜は自由な大きさに切ることができるので,内田先生には直径が4mm~8mmぐらいのものを用意してもらい,作成できた網膜剥離の大きさに応じて,できるだけ大きな人工網膜を入れようと考えています。人工網膜の面積が大きい方が視野が広くなるからです。
─健常者と同じように見えるにはどれくらいの大きさが必要ですか?
(松尾)計算すると直径5mmの人工網膜の視野角は30度ぐらいになります。普通私たちは70度ぐらいは見えていますが,網膜色素変性の患者さんはたいてい10度ぐらいしか視野がないので大きな改善になると思います。さらに現在では注射器のような人工網膜注入器(インジェクター)によって,最大7mm~10mmの人工網膜を丸めて入れられることが確認できています。
この装置も内田先生の研究室と三乗工業(株)で考えてくれたもので,最初は先端の径はφ2.3mmだったのですが,人の眼と大きさが近いウサギの眼の手術では太すぎたので,最新モデルでφ1.6mmまで細くしてもらいました。さらに,まっすぐだと使いにくいので先が曲がったものを作ってもらったところ,これが実にうまくいきました。
この先端部分を作ってくれるのが,シバセ工業(株)という岡山のストローのメーカーで,業界が中国製に押される中でもいろんな分野に進出している会社です。インジェクターの径がφ1.6mmと決まったのは,ストローを製造する過程で再現性よく作れる限界だったためです。このように㈱林原が製造する色素も含め,岡山県内でものづくりはほぼ完了しています(笑)。
この方式なら通常の眼科手術の修練を積んだ医者であれば実施できます。色素がポリエチレンの表裏両面に付いているので,どっち向きに入っても構いません。手術がやりやすいというのはすごく大切な要因で,例えばドイツの人工網膜は特定の人(医師)しか手術できないため研究が中断しています。これは臨床医からしたらすごくありがたい点なので,人工網膜とインジェクターをセットで承認を得て,販売したいと考えています。