─そういった伝統技能の継承みたいなことにも使える
(夏山)私も一緒に伊勢まで行ったのですが,最初のうちは職人さんは会いもしてくれなかった(笑)。
(竹末)こんな機械に我々の伝統を奪われたくないという思いがあったのでしょうが,学生が粘り強く交渉するうちに,「まぁ来いよ」ということになったので押しかけて行ったんです。ところが職人さんにレーザー加工の型紙を見せても,最初は横を向いて見てもくれないわけです。それがいつからか「あれ,いけるじゃん」って感じにだんだんなってきて(笑)。そうなるまで3,4回は通いましたかね。最後には仲間になってくれて,いまだにお付き合いさせていただいています。
ただ,やっぱり職人さんでないとできない部分もあります,例えば竜のヒゲのような線彫りや鋭角の部分はレーザーでやると焼けて飛んでしまうんですね。ところが職人さんがやると綺麗にできる。論文にはそういうものには職人さんの腕が必要だよということも書いています。やっぱりレーザーが得意なのは,同じものが作れるというところです。型紙というのは傷みますよね。傷んでもデータさえあればレーザーならまた同じものが作れます。そういう利点をうまく活かして,「こういう分野には使えます。ただし,ものすごく繊細な部分は職人さんの手が必要です」ということを論文では結びにしてあります。
(夏山)職人の方曰く,レーザーは一級の職人の真似はできないけど,二級の職人よりはいいですねと(笑)。
(竹末)彫り方には縞彫りとか突彫りとか5種類くらいあるのですが,それらに一人ずつ専門の彫り師が必要なところをレーザーは1台で全部やれるものですから,参ったという顔をしていました。もちろん口には出しませんが(笑)。
(夏山)そういう意味で面白いのは,象嵌細工にレーザーを使って,職人さんにしかできなかった技術を広め,通産(現・経済産業省)大臣賞をいただいたというユーザーさんもあります。
(竹末)象嵌細工では模様を木に彫ってその内側にパーツを入れるのですが,そのパーツは最初の模様よりもちょっとだけ小さく作らないと入りません。それがデジタルだと簡単にできるわけです。レーザーなら「コンマ何ミリ小さく作れ」って命令を掛ければいいわけですから彼らも助かっていると思います。しかも貝殻を切って埋め込むパーツを作れば,螺鈿細工にもなりますしね。
─地域活性化とは具体的にどのような活動ですか?
(U-suke)私は絵本作家なのですが,非常勤でFDAのプロデューサーのお手伝いもしています。岡山県真庭市の湯原温泉で地元の良いところを考えて絵に描いてもらって,それをスキャンしてレーザーでキーホルダーを作るという子供向けのワークショップをFDAでやったときに,地元の人から町おこしのアイデアを求められて,町を舞台にした絵本を作って町おこしをしませんかと提案し,実際に絵本を出版しました。
主人公はオオサンショウウオです。湯原温泉には野生のオオサンショウウオが多くいて現地ではハンザキと呼ばれています。半分になっても死なないくらい生命力が強いという意味だそうです。そこで主人公はザキはんという名前を付けました。レーザーがきっかけで出した絵本ですので,レーザーでグッズを作って販売もしました。