─竹末先生は大学でどういったことを教えられてきたのでしょうか?
(竹末)私は日立製作所で30年間プロダクトデザインをやっていました。日立ではものづくり,家電から新幹線,コンピュータ機器,システムのデザイン,最後は営業企画も手掛けていました。その後,53歳の時に拓殖大学工学部デザイン学科の教授として着任し,17年間教鞭を取る中で夏山さんとの出会いを通じてレーザーでいろんなことができることを知って,学生にものづくりをさせたり,オリジナルの制作をしたり,それから広くいろんな人たちから作品を公募するコンテストを開催したりしてコミュニティも作ってきました。
さきほど話にあったファブラボですが,2011年にマサチューセッツ工科大学のニール・ガーシェンフェルド教授が提唱したファブデザインという活動に,当時准教授だった田中先生(慶應義塾大学 環境情報学部教授 田中浩也氏)が留学先で感銘を受けて帰ってきました。そうして鎌倉にファブラボを作って今では18か所に広がっていますが,そういう活動の支援もしてきています。
ファブラボとは個人による自由なものづくりの可能性を拡げることを目指した活動で,コミュニティ活動をする施設としても定着してきています。ファブラボは世界各地にありますが,ラボによって性格が違っていて,場所を貸すだけだったり,スキルをメインに貸したりするところもあります。ファブラボ憲章というのがあって認定されると正式なファブラボの仲間に入れるのですが,認定を受けずにファブスペースとして活動している団体も1000か所以上に増えています。もともとファブラボは,3Dプリンターやレーザー加工機を皆に使ってもらいましょうという市民運動のような活動ですから,それがいろんな形になってきているわけです。
例えばこうした場所は九州大学や宮城大学といった大学にもあります。大学なら人集めもできますし,大学の先生がやれば給料をもらいながら活動ができます。ところが独立してやろうとすると採算的になかなか難しい。そこで業態を変えて,例えばホームセンターの中にファブラボを作ったりしているところもあります。いろいろな業態が作られてきているというのが現在のファブラボの実態です。
FDAはそういうものづくりを通じて人づくり,大げさに言えば哲学的なことをやろうよということで,夏山さんとはじめたものです。セミナーや教室といったファブラボに近いこともやっていますが,FDAはファブラボ的ではありません。あくまでも人との関わりあいや感動をテーマにしています。人とのつながりを大切にしていますから,例えばバーベキュー大会や忘年会といった企画を通じて人が集まってきています。中にはものづくりのセミプロのような人や美大を出た先生もいて,そういう人たちが仲間になりながらずっとやってきています。
─レーザー加工機の良さはどんなところにあると思いますか?
(竹末)私も手作りでいろんなものを作りますが,同じものは出来ないんですね。レーザー加工機は大量生産こそできませんが,データさえあればほぼ同じものが正確にできます。そういう意味では非常に便利です。
私は大学でプロダクトデザインのほかデザイン材料学も教えてきました。デザイナーにとって材料を知っているということは非常に大切です。私は学生時代に焼き物や繊維,日立では鉄板やプラスチックなどを扱ってきましたが,レーザー加工機はその材料に応じていろんなことができます。当時は金属を切る装置はありませんでしたが,木,紙,布など色んなものを切ったり彫刻したりできるわけです。
特にカッターで切るのと違いレーザーは緻密な模様のパターンを切れます。こうした特長にヒントを得て,染め物の型紙をレーザーで加工するという研究を当時の学生が修士論文にまとめました。伊勢型紙という,生地に文様を付ける型紙を職人さんが手で彫っている伝統工芸があるのですが,職人さんがもう80歳や90歳と高齢で,後継者がいないという問題に直面しています。
型紙のパターンをデジタル化して機械彫刻で復刻保存しようとする研究もあるのですが,型紙をカットする際に刃先の向きによってカットできる模様に制約があるのが問題でした。そこで研究では,こうした制約を受けず,XYプロッターで様々な模様をカットできるレーザーでこの問題に挑みました。
まず人間国宝の職人と会って,型紙をレーザーで加工して実際に染めてみました。手で彫った型紙とレーザーで彫った型紙の違いを比較検討したところ,一定の条件において型紙のレーザー加工が可能なことが分かりました。
この成果をいくつかの国際学会で発表したところ,海外ではそういう試みはあまりないらしく,非常に注目されて評判になりました。論文を書いた学生はレーザーとは関係のない企業に就職したのですが,この論文がきっかけとなり,今は京都市産業技術研究所の研究員として働いています。