─他にもプロジェクトはありますか?
去年から始まっているSIPのプロジェクトがあります。パナソニック,スズキ,東京大学,産総研で行なっている,データのエッジ処理とクラウド連携によって,複数台で自動走行するモビリティの研究です。基本的には屋内の自動走行をパナソニック,屋外の機体がスズキ,屋外のソフトウェアを我々,自動運転で乗っている人の乗り心地,つまり自動運転の時と人に押してもらう時の安心感の違いといった,乗り心地や快適性などを東大が担当します。
他にも周囲に対する動きの受容性,人と人だったら例えば顔を見て,こっちによけそうとか,絶妙なアイコンタクトですれ違いもできますが,自動運転になると人対ロボットのコミュニケーションになってきます。さらには周囲に受け入れられるような移動経路の生成といったところも重要になってきます。
あとは内閣府が近未来技術等社会実装事業という事業をやっています。全国の自治体が応募する中で,茨城県とつくば市が共同提案したものが採択されています。その中のひとつに我々の研究も入っていて,例えばつくば市で一番力を入れているのが,モビリティの自動走行での信号の横断です。
今までは,モビリティにカメラやセンサーを付けて信号の色を判定していたのですが,最近では信号機が発する情報によって,渡ってもいい,いけないという判定ができるようになりつつあります。車道横断時の事故は大きな因子のひとつですので,こういう技術も使って,安全に交差点を渡る技術の実装を進めています。
実はこの事業そのものは技術開発というより,技術を実装する上においてネックとなる規制の緩和を進めるのが狙いでした。この時,歩道で自動運転の実証実験を行なってもいいのかどうかを,つくば市が警察庁や茨城県警に確認し,搭乗者自らが動かしていると評価されるような自動運転は歩行者扱いが可能という回答を得て,4月の道路走行に至りました。 それまで歩道での自動運転の実験はグレーゾーンだったので,我々は実験する時,いちいち警察にお伺いをたてて,ケースごとに行なってきました。それが今回,歩道における先ほどのような自動運転の実証実験は歩行者とみなすので届け出は不要,という回答を得たので,実験がやりやすくなったのです。
ただし,歩行者とみなされる車いすには制限があって,幅が70cm,長さが120cm,高さが120cmというサイズと,モーターの出力や最高速度によって判断されます。先ほどお見せした自動運転の車いすの高さはこれを超えているので歩行者になりません。サイズ内に全てを収められるよう,センサーのレイアウトなど,取り付け方の工夫が必要です。
─この実験車両はシニアカーを改造したものですか?
これはスズキとの共同研究で開発しているもので(写真4,5),規定のサイズに収まっているので歩行者扱いです。LiDARが二つ付いているのは,上のベロダインの16レイヤーのLiDARは自動車の屋根に付けることを想定しているので50cmより手前,車いすのすぐそばにいる人や障害物が見えないからです。そこで,ロボットなどに付けることを想定している北陽電機の1レイヤーのLiDARで,1cmくらい手前までを見ています。