光学センサーが実現するダイバーシティ─より身近な自動運転技術の実現へ

◆阪野 貴彦(バンノ アツヒコ)
(国研)産業技術総合研究所 スマートモビリティ研究チーム長・博士(情報理工学)
専門分野:コンピュータビジョン

専門分野:コンピュータビジョン
1996年  東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻(修士課程) 修了
1996年~2003年 警察庁科学警察研究所
2006年  東京大学大学院情報理工学系研究科電子情報学専攻(博士 課程)修了
2006年~2012年 東京大学生産技術研究所特任助教
2012年 産業技術総合研究所
2014年~2015年 スイス連邦工科大学チューリッヒ校客員研究員
2015年~2016年 経済産業省製造産業局産業機械課
2016年~現職

自動運転の実現に期待が高まっているが,これは自動車に限った話ではない。例えば電動車いすやシニアカーなど,身体の機能に制限のある人たちが利用するモビリティに自動運転機能を搭載すれば,他の歩行者や交通機関と協調した安全な移動が可能となる。まさに,ダイバーシティ社会を実現するカギとなる技術と言えよう。

今回,産業技術総合研究所でスマートモビリティ研究チーム長を務める阪野貴彦氏に取材をお願いした。素人目には速度域が低いこうしたモビリティの自動運転は,高速で走行する自動車のそれに対してハードルが低い様に思える。しかし,実際には道交法で「歩行者」に分類されることによる難しさがあるという。

この技術を実現するためにキーデバイスとなるのは,自動車の自動運転でもお馴染みのLiDARやカメラだが,やはり問題も残っている。超高齢社会を迎える今後,どのようなセンサーが求められるのか。最新の研究にその答えを探ってみたい。

─こちらのセンターとご研究について教えてください
写真1 自動運転車いす初号機(提供:阪野氏)と,8の字に動かすことで3次元計測を実現したLiDAR部分のアップ
写真1 自動運転車いす初号機(提供:阪野氏)と,8の字に動かすことで3次元計測を実現したLiDAR部分のアップ

産総研の部門はエネルギー関係や生命工学といった領域で分かれていますが,私たちは情報・人間工学という領域の知能システム研究部門から出た,ロボットイノベーション研究センターになります。

このセンターでは,ロボット技術を用いた社会課題解決のイノベーションを研究しています。私たちスマートモビリティ研究チームは,例えば免許返納後の高齢者のバス停から家までのラストワンマイルの移動といった,自動車の自動運転ではケアできない,主に歩道上における自動運転の研究をしています。

以前,つくばにはモビリティロボット実験特区というのがあり,日本でさきがけてモビリティの実証実験を行なっていました。その頃に我々が開発していたのは,3次元環境の地図の自動構築や長距離移動ロボット,と言っても,自宅から駅のような2kmくらいの距離を自律走行するロボットです。この時3次元環境を構築するのに使っていたのが,カメラやレーザーレンジセンサー(LiDAR)です。

最初に開発した自律走行する車いす(写真1)は,市販の車いすにバッテリーやモーター,3次元計測用のLiDAR,制御PC,さらに目の前の障害物を検出するための2次元LiDARを取り付けたものです。LiDARで周囲地図を作製し,事前に作成した3次元地図と照合する自己位置推定技術(SLAM:SimultaneousLocalizationandMapping)によって自分がどこにいるかを計算します。3次元計測は,2次元LiDARを8の字を描くように動かして行ない,GPS不要で自律走行できます。具体的には,まず手動でコースを1回走って3次元の地図を取得し,その後,地図上でコースを指定すれば,そのとおりに自動で走ってくれるというものです。

最近はAIを取り入れた危険回避行動生成などにも力を入れていますが,基本的にはモビリティの自動運転のためのSLAMや物体認識,危険認識といった要素的な技術と,シェアリングの研究で行なっていた貸し出しシステムなどを織り交ぜながら,社会への実装を目指しています。将来的には物流のようなニーズも出てくるはずなので,モビリティに自動運転させるための要素的な技術だけにこだわらず,そうした応用もできるような技術を開発しています。

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