─先生のアイデアが製品になることもあるのですか?
完全に自分がゼロからパテントを書いてしまう,要するに企業の開発ラインじゃないものを作って,それを提示して,企業がうまく乗ってものにするかというと,これはとても難しいと思っています。サンフランシスコやカリフォルニアならともかく,現在の日本でこういうビジネスモデルが成立しているのを僕は知りません。日本では大学がパテントを出しても,企業はそうそう上手く組み付けないですよね。
逆に,企業がある程度開発したものに対して僕らが協力するのはわりと簡単です。例えば実データ,カタログデータを採ってあげる,アプリケーションを提案する,あとは仕様の設定に関わるといったことです。僕の場合,顕微鏡だったら大手4社全てとこうした関りを持っています。
─日本の産業の問題点をどうとらえていますか?
例えばLiDARやInGaAsセンサーを開発している会社っていっぱいありますよね。でも,儲かっている会社はないと思うんですよ。なのに,さらにそこに参入する会社があったりして,みんなで同じようなものを作って戦っています。だから歯がゆく思うことはたくさんあります。みんなで同じようなところを掘って,出口が出口がと言っている。
企業の人も自分たちの開発だからそのまま貫くじゃなくて,うまくいかなかったら一度止めて,新しいことができるようなったらいいのに,とはずっと思っています。日本の企業って最初に決めた事業計画を絶対に曲げないですよね。みんな同じようなことをやって,絵に描いた餅をずっと主張しているように思えます。
一方で,会社が大学の知識やアイデアを普通に買い上げられるようにしたらいいのになとも思っています。僕のところに話を聞きにくるのに,中には無料で依頼してくる人もいます。「これを開発しているけど全然進まなくて,なんかアイデアありませんか?」といった感じです。
まあ一定の話はできますが,向こうは仕事で来ていますよね。ちゃんとした対価を払えば僕らも協力がしやすいんです。産学連携とか簡単に言いますが,大学の知識やアイデアやデータには正当な対価を払うべきです。
─今,注目している材料や技術はありますか?
多くの製品で大事なのは回転部品,モーターですよね。自動車のエンジンがダメになるのも,ハブが折れるのもベアリングの部分です。この回転部品を無くしたいとずっと思っているんですよ。故障だけでなくロスにもなるので。
で,僕はピエゾ素子がすごく好きで,こうした動きを全部ピエゾに変えたいなと思っているんです。顕微鏡もモーターがたくさん使われていますが,結像も液体レンズにして,あちこち非線形の光学結晶やピエゾを電圧で操作できるようになったら,本当の意味での電動化になるとずっと思っています。ピエゾで動く自動車とか,モーターが無くなるのが次の産業革命じゃないかって,勝手に思っているんですけど,どうでしょうか(笑)。
(月刊OPTRONICS 2019年8月号)