─この二光子顕微鏡は製品だったものですか?
製品です(笑)。一応顕微鏡の形はしていました。このゲームのコントローラーはステージの上げ下げに使います。ステージの位置は数字を打ち込んで決める製品が多いですが,僕は動きが見えていないと嫌なので,レバーで上下するようにしました。動作をわかりやすく,数字も全てリアルタイムで見えるように作り変えていますが,もとの結像自体は変えていないので通常のスペックは出ていて,生き物の中を二光子顕微鏡の一番いい状態で見ることがでます。
こうした顕微鏡はプレパラートを見るものとして納品されるので,生き物のような大きなものを扱えるようになっていません。生き物の場合,長時間固定できる居心地の良いホルダーがあって,はじめて一晩も二晩もかけた画像を撮ることができます。なので,本体だけでなく,周辺の作り込みも大事になります。
─こうした装置は先生がひとりで作っているんですか?
そうです。さすがに,人にこんな変なもの作れというのは気が引けます(笑)。ヤフオクで買ってきたすごく古いパーツとか,中国製のオシロスコープとかが組み合わさっちゃっていますから。
顕微鏡以外でも,車いすは自分の障碍に合わせて四輪ステア機構を作って,自分のギア比に合った自転車のホイールを付けたりして,ふつうの人より速いペースで走れるようにしています。自転車をベースに溶接や接合をして,自分の好きな色にして,自分の体に合わせて。まあ1個のユーザー,1個のニーズで作るのが好きなんでしょうね。
一応,フライス盤やボール盤,高速切断機などは揃っているので,こうした叩いて曲げて削ってという加工はラボでできます。これくらいあればたいがいのものは作れるんですよ。加工というとMC旋盤やマシニングセンターを連想しますが,画像に関する装置は案外丁寧に組んだりする必要はなくて,最後にアライメントで精度を出せばいいわけです。
─医学部でモノづくりに励んでいるのですね
もともと医学部を選んだのも,チョイスが広いと思ったからです。もし電気電子系だったら豚の実験とかできないじゃないですか。でも医学部ならどちらも許されるから,っていうくらいの話です。
それに論文を書くというのはある意味すごく遠い作業です。例えばiPSの論文を書いても,それによって患者さんが助かるかどうかは分かりにくい。つまり論文を書いても患者さん,ユーザーまでが遠いんです。でも,例えば僕が作ったシステムは次の日には研究者が使うことができます。医学部としても,そういう技術をライフサイエンスに使ったり,医学生や一般の人への教育で使ったりできるので,「あり」なんです。
─光学の知識は独学で習得したのですか?
そうですね。僕は速読で一日に500ページは読めるので,雑誌なら月に200冊くらい買って,ありとあらゆる文章をバーッと読みます。モジュールが欲しいので月刊OPTRONICSもよく見ていますよ(笑)。光学に関しては,結像光学と波動光学と量子光学と,それぞれの本を読んで,後は実際に試しながら知識を身に付けました。
─先生の次なる構想を教えてください
二光子顕微鏡は新しい結像理論が30年くらい出ていないので,ディテクタにGaAsPを使う昔ながらのやり方や,超解像はたぶんもう進化しないと思うんです。もちろん,新しいレーザーができれば話は別ですが。だから二光子よりもLiDARの波長をもっと長くして,動物の体内をスキャンできる装置を作ってみたいですね。CMOSセンサーがもっと大きくなったらレンズレスカメラもいいと思います。でもこんな風に思いついてもなかなかうまくはいかないんですけどね(笑)。だからトライはたくさんしています。