今回,光学を基礎として科学・産業・医療への新しい応用を開拓し,現在3つのベンチャー企業を創業,経営している,東京大学 教授の合田圭介氏に話を聞いた。
―光に興味を持ったきっかけを教えてください
もともと親が建築や機械工学系だったので何となくモノづくりが好きで,アメリカの大学で学位を取りました。日本ではなく,アメリカで学位を取った理由は2つあります。東京の人的ネットワーク,情報などを持たない地方出身者(北海道)が,日本の階段式キャリア形成の方法で成功するのは難しく,全く違うキャリア形成の仕方を選択すべきでした。もう一つは,興味のある研究テーマが米国にあったためです。
光に本格的に取り掛かったのはMIT(Massachusetts Institute of Technology)の重力波検出実験です。そこで作っていた大きなレーザー干渉計の装置が2017年のノーベル物理学賞に至っています。そこから2007年に移ったUCLAでポスドクとして,イメージングや分光技術を開発し,特にバイオ分野に応用することを始めました。
2012年に東大に来て以降は, 他のナノテクやデータサイエンス等も取り入れています。UCLAや武漢大学でも兼任しつつ,ベンチャーもいくつか作って取締役をしています。 学部時代の終盤から光に本格的に関与して20年以上です。ただ光だけだとインパクトが弱いので,光近域を融合しました。これによって最終的なアプリケーションは今現在,生命科学や医学,特に最近は創薬や癌・血栓症となっています。
―医学や創薬関係の方向に向かったきっかけはありますか
もともと光は物理学分野で最も伸びていた分野であった一方,その研究のテーマは淘汰されて少なくなってきていました。それはなぜかというと,物理がある意味成熟してきたからです。ビッグサイエンスプロジェクトには何百人から何千人も必要になり,個人でできることがほとんど限られてきています。
そこで私は,研究者個人として影響力を与えることができる小さなチームでやった方がいいと考えました。特にバイオ系は分かっていないことだらけで問題が多いので,私がこれまで培ってきた光技術やメソッドを受けて解決したいという思いがありました。
―現在のメイン研究と進捗を教えてください
私の研究室は58名いて,外国人は半分くらいです。「Chance(serendipity)favors the prepared mind」セレンディピティを可能にするバイオテクノロジーを光を用いて創出するという大きなミッションを持っています。学生一人あたり1プロジェクトあるので,力を入れているのは何かと言われたら沢山ありますが,創薬における動物実験の自動化を光技術で行なっています。今,情報科学の力が凄いのでそのツールをふんだんに利用するには,できるだけ質の高いデータを大量に生み出す技術が必要なため,そこに我々はフォーカスしています。
―注目している,今後化けるであろう光技術はなんでしょうか
バイオや医療です。世界最大の光学会であるPhotonics WestにはBIOSとOPTOとLASEの3つの柱があります。バイオ系のBIOSが入ったことで臨床医が参加するようになり,一気に学会の人数が増えました。やはりバイオはフォトニクスの強いドライビングフォースなのは間違いありません。ノーベル化学賞でもここ最近はバイオ系の受賞が半分ぐらいを占めています。
昨今先進国で少子高齢化が進んでくると,診断技術やモニタリング技術,治療技術がどんどん伸びていきます。当然私の研究でも力を入れていて,イメージングと分光において,いかに質の高いデータを大量に早く生み出し,それを用いてAIで診断するか,という方向に結び付けています。