1. はじめに
多くの種類のレーザーシステムでは分散の影響は小さなものであるが,超短パルスレーザーのアプリケーションではとりわけ問題になる。超短パルスレーザーは,ピコ秒,フェムト秒,もしくはアト秒のレベルの短いパルス持続時間が特徴になる。
パルス持続時間の下限に到達したフーリエ限界パルスは,ハイゼンベルグの不確定性原理によって広い波長幅を有することになる(図1)。こうした広帯域パルスが光媒体を透過する際,色分散によってパルスの持続時間が引き伸ばされ,超短パルスアプリケーションに弊害をもたらす。
セクション1:色分散の概要
レーザーパルスが光媒体を伝播する方法は,群速度(vg)によって表される。媒体中の光の位相速度の変動は,その波数(k)に関連する:
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ここで,ωは光の角周波数,cは真空中の光の速度,そしてnは媒体の屈折率になる。波数kは2π/λになる。この概念は,光波の空間周波数としても知られている。パルス速度と群速度の間の違いは図2に図解される。
複数の波長を含む光がある材料を伝播する時,群速度の周波数(波長)依存性から,長波長(低周波数)の方が短波長よりもわずかながら速く通過する。これにより,プリズムを通過する光が材料のスペクトル分散によって各構成色に分離されるのと同じ様に,波面の位相のスペクトル変動が生じる。
群速度が周波数に対する位相速度の一次導関数として与えられるため,群速度分散(Group Velocity Dispersion;GVD)は,周波数に対する逆群速度の導関数として次式のように表される。
⑵
逆群速度は一次分散として,GVDは二次分散として知られている。群速度は,屈折率の一次導関数が波長または周波数に対応するという点でスペクトル分散と似ており,GVDは,その二次導関数が波長または周波数に対応することから,部分分散と同様に用いられる。低GVD用のオプティクスの設計は,色補正された性能を設計するのに似ている。違う点は,アッベ数や部分分散よりもむしろ群速度やGVDに注目している点である。
GVDは光媒体の長さの影響を受けない。群遅延分散(GDD)は媒体の長さを考慮し,GVDに長さをかけることで求められる。
⑶
GVDは波長に大きく依存し,一般にfs2/mmの単位で通常表される。例えば,合成石英のGVDは589.3 nmで+57 fs2/mm,1500 nmでは–26 fs2/mmである。この二つの波長の間にゼロ分散波長(1.3 µm近傍)があり,そこではGVDがゼロになる。図3は,合成石英の波長に対するGVDの変動量を示している。光ファイバー通信では,GVDは一般に周波数ではなく波長に対する導関数で規定され,通常はps/(nm・km)の単位で表される。
セクション2:超短パルスレーザー
超短パルスレーザーは,その短いパルス持続時間と高いピークパワーによって,精密な生物医学アプリケーション,材料加工,マイクロマシニング,非線形顕微鏡やイメージング,そして通信をはじめとしたさまざまなアプリケーションに有益になる。超短パルスレーザーは,材料加工やマイクロマシニングでは周辺部への損傷の低減や後処理工程を削減しながら,より高い寸法公差を可能にする。
同様に,レーザー手術や他の医療用アプリケーションにおいては,超短パルスレーザーは消毒や麻酔の必要性を低減しながら,心的外傷を軽減させることができる。レーザーの超短パルスは,大量のモード(または光の半波長の整数倍)を含む光波が,重畳した同相成分を通じてコヒーレントに発光する時に生成される。これはモード同期としても知られている。
GVDの波長依存性は,超短パルスの帯域幅の広さから大きな影響があり,光学系を通過する際に超短パルスの持続時間が引き伸ばされる(図4)。入射パルスの持続時間(τIn)から拡がった出射パルスの持続時間(τOut)の量はGDDに関係する(図5):
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ほとんどの光媒体は正の分散を呈するので,長波長のほうが短波長よりも高い位相速度で光媒体を通過し,パルス持続時間を引き伸ばす(図4)。これは,正のチャープとして知られている。超短パルスレーザーは,帯域幅が広いために他のタイプのレーザーよりも分散の影響を強く受ける。
パルス拡がりに加えて,色分散も光学面での屈折角を周波数に依存させる可能性があり,角分散や周波数依存の光路長につながる。
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