1. はじめに
オプティカルコーティング(光学薄膜)は,光学部品の透過や反射,或いは偏光特性を高めるために用いられる。例えば,未コートのガラス部品の各面では,入射光の約4%が反射される。これにある反射防止コーティングが施されると,各面での反射率を0.1%未満まで減らすことができ,またある高反射率誘電体膜コーティングが施されれば,反射率を99.99%以上に増やすことができる。オプティカルコーティングは,酸化物や金属,或いは希土類といった材料の薄い層の組み合わせで構成されている。オプティカルコーティングの性能は,積層数やその層の厚さ,また各層間の屈折率差に依存する。本セクションでは,オプティカルコーティングの理論や一般的なコーティングのタイプ,及びコーティングの製法を考察していく。
2. オプティカルコーティング入門
光学用の薄膜コーティングは,五酸化タンタル(Ta2O5)や酸化アルミニウム(Al2O3),あるいは酸化ハフニウム(HfO2)といった誘電体や金属材料の薄膜層を交互に蒸着することで作られる。干渉を最大化もしくは最小化するため,各層の厚さはアプリケーションで用いられる光の波長の通常λ/4(QWOT)もしくはλ/2(HWOT)の光学膜厚にする。これらの薄膜が,高屈折率層と低屈折率層として交互に積層されることにより,必要となる光の干渉効果を作り出す(図1)。
オプティカルコーティングは,光学部品の性能を光の特定の入射角度や偏光状態で高めるようにデザインされている。本来設計されたものとは異なる入射角度や偏光条件で使用すると,性能上大きな低下を招く結果になる。
また極端に異なる角度や偏光状態で使用した場合は,コーティングが本来持つ機能が完全に失われる結果を招く。
3. オプティカルコーティング理論
オプティカルコーティングを理解するためには,屈折と反射に関するフレネルの公式を理解しなければならない。屈折は,波がある光学的媒質から別の媒質へ通過する時の波の伝搬方向の変化で,屈折に関するスネルの法則によってその方向が決まる。
n1は入射媒質の屈折率,θ1は入射光線の角度,n2は出射媒質の屈折率,そしてθ2は屈折/反射光線の角度(図2)。
屈折率の異なる幾層もの平行平面から成る多層薄膜コーティングの場合,どの層においてもスネルの法則でその屈折角を説明することができる。薄膜内での光線の角度は,薄膜の積層順序や各層の位置に依存しない。なぜなら,スネルの法則は各層の境界面で適用されるからである(図3)。
図3の出射光線は,n1=n4になるため,入射光線と平行になる。曲面状にオプティカルコーティングが施された場合は,その曲率のために厳密には平行にはならない。しかしながら,コーティングの薄さから,おおよその平行は引き続き成り立つ。
反射の法則は,面の法線を基準にした反射光線の角度を表す。その大きさは入射光線のそれと同じになるが,面の法線を基準にしてその方向だけが反対になる。
ある媒質からその屈折率よりも小さな屈折率の別の媒質に光線が入射する時,その入射角度が2つの屈折率の比率によって定義される臨界角(θC)よりも大きい場合は,光が全反射し,全ての光線が反射することになる(図4)。入射角が臨界角と全く同じになる時,その屈折角の大きさは90°になる。
2つの光学的媒質境界面での透過率と反射率の大きさは,透過と反射に関するフレネルの公式で表される。
⑷
ここで,tpとtsはp偏光およびs偏光での透過率,rpとrsはp偏光およびs偏光での反射率,n1とn2は2つの光学的媒質の屈折率,θ1は入射角,θ2は透過または反射角。光が垂直入射する時,θ1とθ2の大きさは0になり,その結果上記公式の余弦(コサイン)項が全て1となって,透過率と反射率の大きさは偏光状態に関係なく同じ大きさになる。これは,光が垂直入射した場合にはs偏光とp偏光に違いはないという点で直感的に理にかなっている。
■Optical Coating 1
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