表面品質

図1 MIL-PRF-13830Bは,40 Wの白熱ランプまたは15 Wの昼光色蛍光ランプ下での目視検査を規定する
図1 MIL-PRF-13830Bは,40 Wの白熱ランプまたは15 Wの昼光色蛍光ランプ下での目視検査を規定する

1. はじめに
光学部品の表面品質は,製造あるいは取り扱い工程中に生じるキズ(スクラッチ)やブツ(ディグ)などの表面上の欠陥の評価で表される。表面品質は,イメージングアプリケーションよりもレーザーアプリケーションでより重要になる。なぜなら,表面欠陥がレーザー誘起損傷を引き起こす主要箇所になるからだ。最大信号強度が必須の高感度システムでは,表面欠陥に起因したスループット変動や散乱増加を受けることもある。

UV波長で用いられるオプティクスは,可視やIRシステムで用いられるそれよりも厳しい表面品質が求められる。波長が短くなると散乱の量がより大きくなることがその理由である。規格化された表面品質はコストに直接的な影響を及ぼすため,使用するオプティクスをオーバースペックにしたり,あるいは必要以上に良質な表面品質のものを使用することは,コストアップにつながる。そのため,表面品質のスペックとそれがシステム性能にどのような影響を及ぼすかを理解することが,システムの成功と費用対効果の高いシステムに欠かせない。

表面品質の規定には,米国軍用規格のMIL-PRF-13830BやISO 10110といったいくつかの標準規格がある。

図2 MIL-PRF-13830Bは,キズ(スクラッチ)やブツ(ディグ)の大きさを校正済み基準と目視比較することで,オプティクスの表面品質を特性化する
図2 MIL-PRF-13830Bは,キズ(スクラッチ)やブツ(ディグ)の大きさを校正済み基準と目視比較することで,オプティクスの表面品質を特性化する

2. 米国規格MIL-PRF-13830B
米国軍用規格MIL-PRF-13830Bは,“キズ(scratch)とブツ(dig)”という2つの数字の連記で表わされ,既に規定された校正済み基準に基づいてキズとブツの各々の大きさを評価する1)。キズナンバーは,10,20,40,60,80といった恣意的な数字の一つで決定され,10から80に数字が上がっていくに従い,キズ見本の明るさが増していく。

校正済み基準上のキズ見本は正確に定量計測されたものではなく,同基準の明るさと検査対象部品の明るさを目視比較し,最も近い場所のキズナンバーで規定される。この検査は,規定された暗視野照明条件下で行われるが,主観的な目視検査であるため,検査員毎に異なる判定結果になることがある(図1)。

これに対してブツナンバーは定量化可能なスペックとなり,ブツナンバーの1/100の大きさをミリメートルで表わし,その最大直径が定量化できる。具体的に,0.4 mm径の最大ブツサイズを持った部品は40のブツナンバーで表わされ,0.2 mm径の最大ブツサイズを持った部品は20のディグナンバー,といったように表わされる(図2)。

キズとブツが一旦決定されると,許容可能な欠陥の上限数は次にあげた規則によって決定される:

キズ(Scratch)
規定したキズナンバーを持つ全てのキズの長さの合算(LSN)が光学部品の直径の1/4を超えないこと。なお円形ではない光学部品の場合は,その形状に等しい大きさの円形の直径をベースとすること

式(1)  ⑴

ブツ(Dig)
許容可能な最大ブツサイズの総数(N)が光学部品の直径の1/20を超えないこと

式(2)  ⑵

実在する全てのブツ直径の大きさの合算(d)が許容可能な最大ブツサイズ(N)の総数に規定したブツナンバー(D)を掛け合わせた数の2倍以下であること

式(3)  ⑶

表面品質10-5で規定した100 mm径のレーザーオプティクスの場合,上に説明した規則により,10のキズナンバーの欠陥がいくつかあっても良いことになるが,その長さの合算は25 mm未満でなければならない。また,0.05 mmの最大ブツサイズ(5のブツナンバー)は5個までが許容される。

40-20のキズ−ブツ規格は,多くの光学アプリケーションで標準品質と広く考えられている。精密レーザーアプリケーションでは一般的に20-10のキズ−ブツ規格が要求されるのに対し,キャビティー内レーザーオプティクスなど要求の最も厳しいレーザーアプリケーションには10-5のキズ−ブツ規格が通常要求される。表面欠陥が性能に及ぼす影響は波長に依存するので,UVレーザーアプリケーションでは10-5の表面品質が多く要求される。10-5を持つオプティクスを波長10.6 µmのCO2レーザーに用いるのはオーバースペックであり,必要以上に高価な投資となる。

図3 MIL-PRF-13830Bは被検対象のオプティクスに目視検査のみを要求するが,ISO 10110-7は微分干渉(DIC)顕微鏡穂法などの技法を用いた寸法的分析を要求する
図3 MIL-PRF-13830Bは被検対象のオプティクスに目視検査のみを要求するが,ISO 10110-7は微分干渉(DIC)顕微鏡穂法などの技法を用いた寸法的分析を要求する

3. ISO 10110-7 Part 7:表面欠陥
MIL-PRF-13830Bの目視検査は費用も時間もさほどかからないが,主観的検査のため,検査精度に欠ける。ISO 10110-7は,表面品質を物理的サイズと与えられた部品エリア内での発生頻度をもとに特定するより定量的なアプローチになる(図3)。この方法はMIL-PRF-13830Bよりも正確だが,ISO 10110-7はより長い検査時間を要するため,よりコストがかかる。表面の小さな欠陥を目視するのに高倍率顕微鏡が必要となり,観察可能な一回当たりの視野サイズも小さくなるため,サンプル全体を観察するのに複数回の検査が必要となり,検査時間は更に長くなる。

図4 ISO 10110-7は,Ngを用いて許容可能な欠陥の数を制限し,グレードナンバーAgを用いて欠陥の最大サイズを制限する
図4 ISO 10110-7は,Ngを用いて許容可能な欠陥の数を制限し,グレードナンバーAgを用いて欠陥の最大サイズを制限する

ISO 10110-7は,キズとブツを区別せずに,代わりに双方を単純に表面欠陥として取り扱う2)。ISO 10110-7では,キズナンバーやブツナンバーではなく,許容される欠陥の数(Ng)と,許容される最大欠陥エリアの平方根に等しいグレードナンバー(Ag)によって規定される(図4)。ISOによる光学部品の表面品質は,図面上に「5/Ng×Ag」として表現される。欠陥によって不明瞭となる全エリアは,次式により与えられる:

式(4)  ⑷

ISO 10110-7は,「寸法的」方法としてNgAgを用いて表面品質を規定することを言及しているが,ISO図面には,MIL-PRF-13830Bと同一の「目視的」方法による表面品質が示されていることがある。ISO図面上の“5/60-40”は,MIL-PRF-13830Bに準じた図面上の“60-40”と同じ意味になる。「寸法的」方法と「目視的」方法の両方が規定されることのメリットは,図面上に全ての規格が網羅されるため,ISO図面の補足の欠如なく,アプリケーションの大半に向けより便利で費用対効果の良いMIL-PRF-13830Bの表面品質規格が使えるという点にある。この時,他方の「寸法的」方法は,表面品質が最重要視される高精度なアプリケーションに対して用いることができる。




参考文献
1)U.S. Military Performance Specification. (1997). General specification governing the manufacturing, assembly, and inspection of Optical Components for Fire Control Instruments (MIL-PRF-13830B).
2)International Organization for Standardization. (2017). Optics and photonics –Preparation of drawings for optical elements and systems – Part 7: Surface imperfections (ISO 10110-7: 2017).




■Surface Quality
■Edmund Optics Japan Co., Ltd.

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