レーザーグレード基板の特性(2)

図4 材料の熱伝導率(k)は,熱量(Q)が既定の厚さ(d)を通過する際の伝導能力を定義する

5. 熱伝導率

材料の熱伝導率(k)は,その材料の伝導による伝熱能力の尺度となる(図4)。W/(m・K)もしくはBtu/(hr・ft・˚F)の単位が通常用いられ,
その大きさは以下の式で定義される:


(1-3)

ここで,Qは時間tの間に伝導する熱量を表し,Q/tの単位はJ/sもしくはWになる。Aは基板の断面積,∆Tは材料の一方の面と他方の面間の温度差,dは材料の厚さになる。

金属のような高い熱伝導率をもつ材料は,ガラスやプラスティックなどの低い熱伝導率をもつ材料よりも遥かに早く熱を逃がすことができる。光学部品にレーザー放射を透過させる主要な効果の一つに放射エネルギーの熱エネルギー変換があるため,材料の熱伝導率を知っておくことはレーザーオプティクスでの光学部品周りのエネルギーバランスを評価する上で重要となる。

特定の波長を反射または透過しない材料は,光をより多く吸収してすぐに熱せられる。カラーガラスフィルターや吸収型のフィルターはその典型例になる。光学部品が蓄熱して非定常的になると,とりわけ効果的な冷却システムを用いていない場合は,損傷がすぐに起こる。仮に冷却されていたとしても,熱伝導が一様ではない不均質な光学部品の場合は材料内にホットスポットが発生し,部品の損傷がすぐに,そしてより確実に発生することになる。屈折率の温度係数と同様に,熱伝導率を理解することは,ハイパワーレーザーシステムのモデル化とどのような光学的性能の効果を期待するかを考える上で重要になる。

5.1 異物や泡に起因する均質性や散乱

均質性
光学基板の均質性は,屈折率の変動を特性化したものであり,透過波面の変形や偏光透過の影響に繋がる1)
これは,次式のように定義される:


(1-4)

ここで,∆sは波面の偏差,dは基板の厚さ,そして∆nは屈折率のP-V変動を指す。高度な均質性,即ち低度なバラツキは,ハイパワーレーザーを用いたアプリケーションにおいてとりわけ重要になる。均質性のバラツキは,材料が溶解される工程から起こる。

表1 均質性クラスと屈折率の最大変動値の関係2)

不適切な混合や熱力学的な不均衡が均質性に影響を及ぼし,除冷やアニール処理の工程で歪みの特性が最終的に決まる。不均質性は,グローバルな非均質性か脈理のどちらかを形成する。前者は屈折率がガラス全体にわたり変動している状態,後者は,約0.1mm~2mmまでの距離に対応した空間的に短い範囲でガラス内部に非均質性が生じている状態となる。表1に,均質性クラス別の屈折率の最大変動を紹介する。

屈折率分布型(GRIN)レンズは,意図的に不均質性を持たせたレンズの一種で,ランダムではない,決められた屈折率分布によって光線を非線形に曲げる(図5)。不均質性は散乱を引き起こし,システム性能の低下やハイパワーレーザーによるレーザー誘起損傷を引き起こす。損傷を防ぎ,エネルギーを効率的に用いるため,透過型のレーザーオプティクスには高度な均質性が極めて重要で,これにより透過波面の変形や偏光透過の影響を防ぐことができるようになる。

図5 均質性レンズと光を一点に集光するGRINレンズの比較

異物や泡に起因する散乱

異物とは,ガラス溶解時の汚染や溶解しきれなかった基板のバッチ,および難溶解性の壁材を始めとする様々な過程で光学ガラスに混入する異物粒子のことを指す。泡もガラス溶解中に生じる反応によって作られる。

泡は,ガラス溶解中の精製段階でほぼ完全に除去されるが,精製が不完全であると泡が残留することがある。洗練された製造プロセスを用いることで,光学ガラス中の異物や泡はほぼ無くなるが,ごく少量残ってしまうことは避けられない。

表2 光学媒質中の泡と異物のクラス3)

レーザーオプティクスでは,異物によって光が散乱されるため,異物の混入はレーザー誘起損傷閾値(Laser Induced Damage Threshold ; LIDT)の値を下げてしまう。この影響の程度は,ガラス中の異物の数や性質およびサイズに依存する。

ガラスの異物や泡の含有量は,検出された泡の断面積の合計から計算され,ガラス体積cm3当たりの合計断面積(mm2)で表される。100cm3当たりで許容可能な泡の最大直径と数は,各断面積毎に定義される。異物は,同じ断面積を持つ泡と同様に扱われる。泡の含有量は3つのクラスに分類される:標準,VB(高規格泡選別),及びEVB(超高規格泡選別)。



参考文献
1) F. Reitmayer and E. Schuster, “Homogeneity of Optical Glasses,” Appl. Opt. 11, 1107-1111 (1972).
2)“TIE-26 : Homogeneity of Optical Glass.” Schott, February 2016.
3)“TIE-28 : Bubbles and Inclusions in Optical Glass.” Schott, May 2016.




Characteristics of Laser Grade Substrates 2
■Edmund Optics Japan Co., Ltd.

<お問合せ先>
エドモンド・オプティクス・ジャパン㈱
TEL: 03-3944-6210
E-mail: tech@edmundoptics.jp
URL: www.edmundoptics.jp

同じカテゴリの連載記事

  • 図9 完全にコリメートされた光は平面波となり,収差の全くない完全なレンズを通過して発散或いは集束する光の波面は球面波になる
    測量法⑶ 2022年04月07日
  • 図4 DIC顕微鏡は像面で光路長の勾配を強度の違いに変換し,他の測定法では検出するのが困難なレーザー誘起損傷の可視化を可能にする
    測量法⑵ 2022年03月01日
  • 図1 キャビティリングダウン分光計は,共振器キャビティ内の強度減衰率を測定することで,絶対強度値を直接測定する測量法より高精度な測定を可能にする
    測量法⑴ 2022年02月01日
  • 図17 オプティクスの損傷確率の信頼区間−灰色の面は損傷が生じるか否かの信頼区間の上限,対する黒い面は信頼区間の下限を表す
    レーザー誘起損傷閾値(LIDT)⑹ 2022年01月01日
  • レーザー誘起損傷閾値(LIDT)⑸
    レーザー誘起損傷閾値(LIDT)⑸ 2021年12月01日
  • レーザー誘起損傷閾値(LIDT)⑷
    レーザー誘起損傷閾値(LIDT)⑷ 2021年11月01日
  • 図7 シングルショット試験のサンプルデータ
    レーザー誘起損傷閾値(LIDT)⑶ 2021年10月01日
  • レーザー誘起損傷閾値(LIDT)⑵
    レーザー誘起損傷閾値(LIDT)⑵ 2021年09月01日