1. はじめに
レーザーシステムに用いられる光学部品は,特にハイパワーレーザーを用いる場合,使用する部品の基板特性に特に注意する必要がある。レーザーオプティクス部品用の基板には広範な光学ガラスや結晶材料が用いられる。
これらの材料の特性や製造プロセス中に生じる可能性のある不具合を理解することで,アプリケーションに合わせた適切なレーザーオプティクスの選定が確実に行えるようになる。レーザーグレード基板には分散や熱吸収特性,均質性や表面下損傷を始め,キーとなる特性が数多くあり,レーザーオプティクス部品用の基板の選定に大きな影響を及ぼすことになる。
2. 吸収
レーザー光は,いくつかの仕組みで光学基板内部で吸収される。光学的媒質を構成する原子の各エネルギー準位にある電子が光子を吸収し,半安定的な高エネルギー準位に遷移する。
この原子は,その後電子が低いエネルギー準位に戻る際,自然放出により蛍光して発光(光子を放射)する。この意図しない蛍光は,エネルギーの損失を招き,信号検出に影響を及ぼすので,レーザーオプティクスのアプリケーションでは有害になることがある。
蛍光は,多くの場合ほぼ等方的で,全ての方向に対して放射するので,問題はさらに悪くなる。蛍光は,希土類のイオン元素などの不純物が基板内に含有していることで通常は起こる。例えば,UVグレードの合成石英は,UVや可視スペクトルにおいて高透過率が得られるが,水酸化物(OH基)イオン不純物によって1.4μm,2.2μm,2.7μmの各波長を中心に透過率の落ち込みが見られる(図1)。
3. 熱膨張係数
温度変動を受けやすいアプリケーションには,アサーマルな光学系が開発されなければならない。アサーマル光学系は,環境の熱的変化に影響を受けず,結果としてピントずれとは無縁になる。
材料の熱膨張係数(Coefficient of Thermal Expansion;CTE)と温度による屈折率変化(dn/dT)に依存するアサーマルデザインの開発は,赤外線領域でとりわけ重要になる。
CTEは,温度変化に対する材料のサイズの変化の割合を表す尺度になる。
熱膨張は,次式にように定義される:
ここで,Lは元の長さ,∆Lは長さの変化量,αLは線形CTE,∆Tは温度変化になる(図2)。
一般的には,物体が加熱されると,その構成分子の運動エネルギーが増加するので,物体が膨張する。しかしながら,中には温度と長さが逆比例となる例外も稀ながら存在する。例えば水のCTEは,3.983℃以下では負の値となり,3.983℃以下では温度が下がると膨張する。
CTEの単位は1/℃である。アプリケーションに合わせてオプティクスを選定する際,CTEを考慮していくことが重要になる。なぜなら,部品のサイズの変化がアライメントに影響を与え,部品に応力を加える可能性があるからだ。
温度変動のある環境では,使用者はその光学部品が加熱によって膨張することを理解しておく必要がある。室温下で25mmの大きさのオプティクスは,300℃では25.1mmになるかもしれない。この膨張によって部品の固定部が破損したり,光が所要の方向から外れる可能性がある。
ポインティング安定性やレーザーのアライメントに影響を及ぼすことがある。これが,一般的に小さいCTEが望まれる理由となる。合成石英はCTEが小さく,熱膨張の軽減によく用いられる。
4. 屈折率の温度係数
屈折率の温度係数(dn/dT)は,温度に対する屈折率変化の尺度となる。大抵のIR材料のdn/dTは,可視光用のガラス材料のそれよりも桁数が大きく,屈折率に大きな変化が生じる。材料の比重は,殆ど全ての場合において温度に反比例するので,温度上昇に伴い減少することになる。
したがって,温度が上昇すると屈折率は小さくなる。
材料のdn/dTは,次式により与えられる:
ここで,T0は参照温度(20℃),Tは温度(単位は℃),∆TはT0からの温度差,λは光の波長,D0,D1,D2,E0,E1およびλTKは材料の定数。
反射型オプティクスのdn/dTは,薄膜の屈折率変化によるごくごくわずかな性能変動を除いて重要な特性とは言えない。しかしながら,透過型オプティクスのdn/dTの場合は,温度変化時の安定性を見極めるのに重要な特性と言える。
ハイパワーレーザービームが光学部品に入射する際は吸収がある程度は必ず起こり,温度上昇になるが,dn/dTの大きさは,これがどの程度性能に影響を及ぼすかの見極めになる(図3)。
■Characteristics of Laser Grade Substrates 1
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