ビーム品質とストレール比(1)

1 はじめに
レーザーの現実世界の性能や品質を正確に予測するために,ビームの品質を説明するレーザーのM2値を理解する必要がある。レーザーの性能が分かれば,それと一緒に用いる光学系の真の性能を特徴づけることで最終的なシステム性能の理解が可能になるからだ。光学系の現実の性能とその理想的性能,即ち回折限界性能との比較は,ストレール比を用いることで行なわれる。

2 M2因子
レーザーのビーム品質は,ビームの実際の形状と理想 的なガウシアンビームの形状を比較したM2因子によって表される。ISO規格11146では,M2因子を次式のように定義される1)


(1-1)

式(1-1)において,w0はビームウエスト,θはレーザーの発散角,λは発振波長になる(図1)。ガウシアンビームの伝播で定義されている通り,ガウシアンビームの発散角は次式によって決定される:


(1-2)

この式で決定される発散角を式(1-1)に代入すると, ガウシアンビームのM2因子の公式を簡単に表せる:


(1-3)

この結果,1のM2因子は,回折限界のガウシアンビームに該当する。M2因子が(1より)大きくなると,理想的ガウシアンビームからずれることを意味する。1未満の値にはなり得ない。エルミート・ガウシアンモードのM2因子は,x方向が(2n+1),y方向が(2m+1)で与えられる2)

例えば,TEM13はx方向で3,y方向で7のM2因子を持つ。代表的なHe-Neレーザーは,1から1.1のM2因子がある。

図1 レーザービームの発散角と
ビームウエスト

レーザービームの光学的パワー以外に,M2因子はビームの輝度も決定する。M2因子は,レーザーの波長を ガウシアンビームの伝播の公式全てに見られるM2因子と波長の積の値で置き換えることで,ビームが伝搬する 間のビーム半径の近似にも用いることができる3)

図2 このビーム断面は,TEM00モードが全く含まれていないにもかか わらず,ある面では理想的なガウシアンのように見えている。このことは,レーザーのM2因子を決定する際に,レーザー軸に沿っ て強度測定を複数回行うことの重要性を表している

M2因子は,ある発散に対してレーザービームがどの程度焦光することができるかを表す重要なパラメータになる。M2因子が小さくなると,より締まった集光になり, ビームがもつパワーをより効率良く使用し,レーザーの潜在的実効パワーをより大きくすることができる。  

M2因子の測定は,レーザー軸上の一平面でビーム形状を計測するのと違い,シンプルではない。ISO 11146では,ニアフィールドとファーフィールドの両方において,光軸に沿った別々の位置で5回,ビーム半径測定を行なうことを規定してい
4)

ビームにTEM00モードが全く含まれていなくても,そのビームをある特定面で理想的なガウシアンであるように見せることは可能になる (図2)。この特定面での断面が完全なガウシアン分布のように見えたとしても,そのビームはガウシアンビームとは全く異なる伝播を行ない,より大きな発散角を持つようになる5)



異なる平面での複数回の半径測定により, このビームと真のガウシアンビーム間の違いはすぐに明らかになるであろう。測定されたビーム半径(w(z))は, 次式のようにビームウエスト(w0),波長( λ ),及びM2因子に関連付けることができる6)


(1-4)


参考文献
1) International Organization for Standardization. (2005). Lasers and laser-related equipment–Test methods for laser beam widths, divergence angles and beam propagation ratios (ISO 11146).
2) A. E. Siegman, “New developments in laser resonators”, Proc. SPIE 1224, 2 (1990).
3) Paschotta, Rüdiger. Encyclopedia of Laser Physics and Technology, RP Photonics, October 2017, www.rp-photonics.com/encyclopedia. html.
4) International Organization for Standardization. (2005). Lasers and laser-related equipment–Test methods for laser beam widths, divergence angles and beam propagation ratios–Part 1: Stigmatic and simple astigmatic beams (ISO 11146-1:2005).
5) A. Siegman, “’Non-Gaussian’ Beam”, OSA Annual Meeting, Long Beach, CA (1997).
6) Hofer, Lucas. “M2 Measurement.” DataRay Inc., 12 Apr. 2016, www. dataray.com/blog-m2-measurement.html.


■Beam Quality and Strehl Ratio 1
■Edmund Optics Japan Co., Ltd.
E-mail: tech@edmundoptics.jp
URL: www.edmundoptics.jp

同じカテゴリの連載記事

  • 図9 完全にコリメートされた光は平面波となり,収差の全くない完全なレンズを通過して発散或いは集束する光の波面は球面波になる
    測量法⑶ 2022年04月07日
  • 図4 DIC顕微鏡は像面で光路長の勾配を強度の違いに変換し,他の測定法では検出するのが困難なレーザー誘起損傷の可視化を可能にする
    測量法⑵ 2022年03月01日
  • 図1 キャビティリングダウン分光計は,共振器キャビティ内の強度減衰率を測定することで,絶対強度値を直接測定する測量法より高精度な測定を可能にする
    測量法⑴ 2022年02月01日
  • 図17 オプティクスの損傷確率の信頼区間−灰色の面は損傷が生じるか否かの信頼区間の上限,対する黒い面は信頼区間の下限を表す
    レーザー誘起損傷閾値(LIDT)⑹ 2022年01月01日
  • レーザー誘起損傷閾値(LIDT)⑸
    レーザー誘起損傷閾値(LIDT)⑸ 2021年12月01日
  • レーザー誘起損傷閾値(LIDT)⑷
    レーザー誘起損傷閾値(LIDT)⑷ 2021年11月01日
  • 図7 シングルショット試験のサンプルデータ
    レーザー誘起損傷閾値(LIDT)⑶ 2021年10月01日
  • レーザー誘起損傷閾値(LIDT)⑵
    レーザー誘起損傷閾値(LIDT)⑵ 2021年09月01日