これらの結果を図5にまとめた。本図は,横軸にη,縦軸にζをとり,それぞれπ/8ステップで変化させた時の偏光の形状を,時計回りの偏光は実線,反時計回りの偏光は破線を用いて示し,同時に消光比をカラースケールで示したものである。
この図より,直線偏光から円偏光まで全ての楕円率の偏光が全ての方位角について生成可能であることが視覚的に俯瞰できる。なお,旧PMCは,LC3をζ=π/2で固定とし,λ/4板で代替したものに相当する。
4. 装置およびその制御方法
図6に実際の液晶素子の組み立て図を示す。本光学系は光学軸の角度誤差の影響を受けやすいため,LC1からLC3の液晶は1体化されており,組立・接着後は光学軸の角度がずれない。また,対向する電極同士は異なる電極パターンが形成されており,図6で示した例では放射状,同心円状のパターンが対向して貼り合わされている。これによって,液晶は双方の電極パターンで分割されることになり,本図中では放射状かつ同心円状に分割された32個の画素が出来る。
これらの各画素を独立に制御するために,液晶の駆動はパッシブマトリクス制御で行う。また,配線はFPCを使用しており,積層しても全ての配線が片側から取り出せる仕様となっている。液晶は図7に示す筐体の中に収められ,顕微鏡等の光学機器中に挿入する。ここで,筐体内部にはX-Y-θステージが備えられてあり,装置内に挿入した後に装置内の光路に合わせて液晶の位置調整を行う。現状ではオリンパスの顕微鏡のプリズム挿入口に適合する形状となっているが,アダプタを介することでニコンの顕微鏡にも使用可能である。筐体は現在も開発中であり,より多くの機器に対応した装置としていく予定である。
最後に,実際に導入を行う際の注意点を述べる。本液晶デバイスは原理的には全ての偏光を作り出せるものの,実際の液晶の駆動はデジタル制御のため,離散化の制限を受ける点に注意が必要である。例えば,ηおよびζを8 bitで制御した場合,生成し得る偏光状態は28×28で65536通りとなる。図8に,これら全ての偏光状態を消光比と方位角で整理した散布図を示す。ただし,直線偏光は消光比がほぼ無限大であるため除外した。本図から分かる通り,直線偏光に近い,すなわち消光比の高い(楕円率の低い)楕円偏光ほど,離散化の影響で生成が難しいことが分かる。
本例では消光比2,5,10の偏光を1回転させる場合を想定し,最もそれに近い制御を行なった場合の軌跡も示しているが。消光比が5を超えると,生成が難しい方位角が現れる。ただし,8 bitという分解能は電圧制御としては最低限の性能であり,実際には16 bitの信号発生器もある。しかし,小型の液晶ドライバでPWM駆動する場合では分解能に上限があることもある。また,液晶の画素の構造も関係してくるため,導入の際には要求仕様や使用する駆動回路を予め考えておく必要がある。また,高強度光の使用時など温度が変動しうる場合は,使用中と同時に温度を計測し,その影響を補正する必要がある。