イベントベース計算撮像による光沢・透明物の外観検査

著者: 髙谷 剛志

5. 社会実装への挑戦

本技術を社会実装するため,筑波大学ベンチャー起業支援事業「つばさ」を通じて,研究開発と事業開発に取り組んできた。2025年現在,GTIE(Greater Tokyo Innovation Ecosystem)GAPファンドの支援を受け,今後の社会実装を加速していく予定である。

事業開発活動として,製造業など様々な業界への課題ヒアリングを積極的に進めており,光沢物や透明物の検査における現場の実際のニーズや,求められる検査精度,導入コストの制約などについて,実用的視点から課題を把握している。将来的には,大学発スタートアップを設立し,社会に価値を還元することを目指しており,様々な製造現場で外観検査の課題を抱える企業からの問い合わせを歓迎している。本技術やシステムに関心をお持ちの場合は,サンプルによる実証実験等について協議したく,ぜひお問い合わせいただきたい。

6. まとめ

本稿では,イベントカメラと変調光源を組み合わせた光沢・透明物向けの外観検査技術について述べた。製造業における外観検査は,製品品質の向上と環境負荷の低減を両立させる重要な分野である。本技術は,通常のカメラ技術の限界を克服し,次世代検査システムの基盤となりうる可能性を持つ。今後の技術発展と産業応用を通じて,製品品質の向上と持続可能な製造業の実現に貢献したいと考えている。

謝辞

本研究開発は,JST START大学・エコシステム推進型スタートアップ・エコシステム形成支援,JPMJST2052(筑波大学ベンチャー起業支援事業「つばさ」)の支援を受けたものです。

参考文献
1)Katsushi Ikeuchi, “Determining Surface Orientations of Specular Surfaces by Using the Photometric Stereo Method”, IEEE Transactions on Pattern Analysis and Machine Intelligence, Vol. PAMI-3, No. 6, pp. 661-669, November 30, 1981.
2)Lucid Vision Labs, “Use Case Tutorial: Detecting Hidden Scratches in Transparent Materials Using DoLP Range Slider”, https://thinklucid.com/polarized-camera-resource-center/detecting-stress-transparent-materials/ (Viewed on September 26, 2025).
3)Tsuyoshi Takatani, Yuzuha Ito, Ayaka Ebisu, Yinqiang Zheng, and Takahito Aoto, “Event-based Bispectral Photometry using Temporally Modulated Illumination”, Proceedings of 2021 IEEE/CVF Conference on Computer Vision and Pattern Recognition, pp. 15638-15647, Virtual, June 19-25, 2021.
4)Kazuma Kitazawa, Takahito Aoto, Satoshi Ikehata, and Tsuyoshi Takatani, “PS-EIP: Robust Photometric Stereo Based on Event Interval Profile”, Proceedings of 2025 IEEE/CVF Conference on Computer Vision and Pattern Recognition, pp. 6241-6251, Nashville, USA, June 11-15, 2025.
5)北沢 一真,髙谷 剛志,“イベントカメラと運動光源を用いた外観検査手法”,第30回 画像センシングシンポジウム(SSII2024),pp. 1-4,神奈川県横浜市,June 12-14, 2024.

■Visual Inspection for Glossy and Transparent Objects by Computational Imaging with Event Cameras
■Tsuyoshi Takatani
■University of Tsukuba, Institute of Systems and Information Engineering, Assistant Professor

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