NTTとOptQC、光量子コンピュータで連携協定 2030年の実用化目指す

著者: 梅村 舞香

NTTとOptQCは、スケーラブル(拡張可能)で信頼性の高い光量子コンピュータの実現に向けた連携協定を締結した(ニュースリリース)。

連携協定を結んだNTT島田明社長(左)とOptQC高瀬寛CEO=18日、武蔵野市

近年、新薬の開発や新材料の設計、金融の最適化や気候変動の予測など、従来のコンピュータでは計算に膨大な時間を要する複雑な課題に対して、量子コンピュータの活用が期待されている。しかし、現在の量子コンピュータは非常に繊細で、わずかなノイズや揺らぎによって量子状態が乱れ、正しい結果が得られなくなることがある。

実用化に向けては、100万量子ビットの生成と、誤り訂正技術を用いた数千の論理量子ビットの安定的な生成・制御が必要となる。現在、世界各国でさまざまな方式の量子コンピュータが研究開発されているが、多くは低温や真空といった特殊な環境を必要としており、実用化には高い技術的ハードルがある。こうした中、光の特性を活用する光量子コンピュータは、消費電力が低く、常温・常圧で動作可能な新しいアプローチとして注目されている。

NTTは、光の技術を軸としたIOWN構想のもと、光通信分野において、量子光源としても活用可能な光増幅技術や光多重化技術、量子分野への応用が期待される誤り訂正技術の研究開発を進めてきた。また、いくつかの技術については、光量子コンピュータへの応用を開始している。

OptQCは、東京大学における25年にわたる光量子コンピュータの基礎研究を土台として設立されたスタートアップ企業。常温・常圧で動作する新型光量子コンピュータの世界初の実現や、光増幅器を用いた超広帯域量子測定、誤り訂正のための量子ビット生成など、光量子コンピュータの根幹をなす様々な技術を実現してきたメンバーが、その中心となっている。

両社は、NTTが有する光通信技術と、OptQCが有する光量子コンピュータ開発技術を融合し、スケーラブルで信頼性の高い実用的な光量子コンピュータの実現をめざす。具体的には、量子コンピュータの実用性の指標となる100万量子ビット規模のスケーラビリティと、信頼性を担保する誤り耐性技術の確立を、2030年までに達成することを目標としている。この連携では、下記についての共同検討を開始するという。

1.光量子コンピュータに活用可能な多重化技術や誤り訂正技術の創出
2.光量子コンピュータを用いたユースケース創出やアルゴリズム・ソフトウェアの開発
3.光量子コンピュータのサプライチェーン
4.光量子コンピュータやユースケースの社会実装

キーワード:

関連記事

  • 【解説】光量子コンピュータの実力はいかに

    NTTと光量子コンピュータ開発スタートアップOptQCが、2030年の実用化を視野に光量子コンピュータの共同開発を始めた。量子計算は創薬や材料研究などで高い計算能力が期待されているが、現在主流の方式は低温環境や精密な遮蔽…

    2025.12.03
  • NTT R&Dフォーラム2025で見えた光技術の現在

    NTTは、最新のR&D関連の取り組みを紹介する「NTT R&D FORUM 2025」を11月19日(水)~21日(金)、25日(火)~26日(水)の6日間にわたり,NTT武蔵野研究開発センタ内において開…

    2025.11.20
  • OptQC,AISolスタートアップとして認定

    OptQCは,AIST Solutions(AISol)より「AISolスタートアップ」として認定されたと発表した(ニュースリリース)。 産業技術総合研究所(産総研)は,そのミッションである「社会課題解決と産業競争力強化…

    2025.03.07
  • 東大ら,世界最速の光量子もつれの生成と観測に成功

    東京大学と日本電信電話(NTT)は,世界最速の光量子もつれの生成・観測に成功した(ニュースリリース)。 量子技術の応用の多くは量子もつれが基本的なリソースとなっているが,量子もつれを評価するときは,量子もつれの純度に加え…

    2025.01.30
  • OptQC,光量子コンピュータ加速に向け6.5億円調達

    OptQCは,グローバル・ブレインをリードインベスターとして,東京大学協創プラットフォーム開発,デライト・ベンチャーズ,科学技術振興機構を引受先とする第三者割当増資を実施し,総額6.5億円の資金調達を完了したと発表した(…

    2025.01.23
  • NTTら,汎用型光量子計算プラットフォームを実現

    日本電信電話(NTT),東京大学,情報通信研究機構(NICT)は,量子性の強い光パルスで計算できる世界初の汎用型光量子計算プラットフォームを実現した(ニュースリリース)。 近年,汎用的な計算を目指した光量子計算プラットフ…

    2025.01.17
  • 理研ら,新方式の光量子コンピューターを開発

    理化学研究所(理研),日本電信電話(NTT),イジングマシン向けSDKと実行環境からなるクラウド基盤を提供するFixstars Amplifyは,新方式の量子コンピューターの開発に成功したと発表した(ニュースリリース)。…

    2024.11.08
  • NTTら,誤り耐性に向け光量子状態の高速生成に成功

    日本電信電話(NTT),東京大学,米マサチューセッツ大学,情報通信研究機構(NICT),理化学研究所は,シュレディンガーの猫状態と呼ばれる強い量子性(非古典性)を有する光量子状態の生成レートを,従来手法より1000倍程度…

    2024.11.05

新着ニュース

人気記事

新着記事

  • オプトキャリア