北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)の研究グループは,カーボンナノホーン表面に磁性イオン液体,近赤外蛍光色素(インドシアニングリーン),分散剤(ポリエチレングリコール-リン脂質複合体)を被覆した,がん治療への有効性が期待されるナノ粒子の作製に成功した(ニュースリリース)。
イオン液体は,低融点,低揮発性,高イオン濃度,高イオン伝導性を持つ液体の塩であり,コンデンサの電解液やCO2吸収剤などの産業用途に加え,環境・エネルギー分野で注目されている。さらに,近年の研究により抗がん作用が発見され,医療分野への応用も期待されている。
イオン液体は,陽イオンと陰イオンの単純な組み合わせからなるため,多種多様な設計が可能であり,「デザイナー溶媒」とも呼ばれる。例えば,1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムと塩化鉄を組み合わせた[Bmin][FeCl4]は,磁場に応答する「磁性イオン液体」として知られている。従来の磁性流体と異なり,磁性イオン液体は安定性が高く,揮発せず燃えないという特性を持つため,固体磁石にはない新たな用途が期待されている。しかし,これまでの応用例は化学物質の抽出や分離に限られていた。
一方,カーボンナノホーン(CNH)は,高い生体適合性と優れた物理化学的特性を持つナノ炭素材料であり,特にバイオメディカル分野で注目されている。CNHは,650~1100nmの近赤外レーザー光を吸収し発熱する「光発熱特性」を有しており,この特性を利用したがん診断・治療技術の開発が進められている。
研究では,磁性イオン液体[Bmin][FeCl4]と光発熱素材であるCNHを複合化し,新たながん診断・治療用ナノ粒子[Bmin][FeCl4]‒PEG‒ICG‒CNHを開発した。このナノ粒子には,磁場応答性と抗がん作用,近赤外蛍光によるがん患部の可視化,光熱変換による治療効果を併せ持たせることを目指した。
作製したナノ粒子は,水溶液中で7日以上安定し,細胞膜浸透性が高く,抗がん作用を示すことが確認された。大腸がんを移植したマウスにナノ粒子を投与し,磁場印加後に近赤外光を照射したところ,がん患部の蛍光可視化に成功。また,磁場とレーザー照射を組み合わせることで,がん細胞の著しい破壊が観察され,5日後にはがんが完全に消失したという。
さらに,生体適合性試験では,血液検査や組織学的検査で副作用が極めて少ないことが確認された。
この成果は,[Bmin][FeCl4]‒PEG‒ICG‒CNHナノ粒子が革新的ながん診断・治療技術の基盤となる可能性を示すもの。研究グループは,ナノテクノロジーや光学分野における材料設計にも貢献することが期待されるとしている。