産業技術総合研究所(産総研)と東京理科大学は,光子吸収を使った量子回路冷却の高速評価技術を開発した(ニュースリリース)。
近年,光子の吸収を利用して超伝導量子ビットを高速に初期化する技術が開発され,超伝導量子コンピューターの課題となっているエラーの改善に役立つと期待されている。しかし,これまで光子吸収直後に回路中にどの程度光子が残っているのかを,高精度に測定できていなかった。
研究グループは,超伝導共振器,超伝導・常伝導接合,超伝導量子ビットが結合した素子を作製し実験を行なった。超伝導量子ビットは,マイクロ波などが作る電磁場環境に置かれると,その電磁場環境の持つエネルギー(光子数)に比例して共鳴周波数が変化することが知られている。
この研究では,量子回路冷却器(QCR)によって冷却される超伝導共振器に,この超伝導量子ビットを配置することで,共振器中に含まれるエネルギーを評価した。実験では,まず超伝導共振器に,外部からマイクロ波によって光子を注入し,その注入した光子をQCRとして働く超伝導・常伝導接合によって吸収させる実験を行なった。
さらに,接合による光子吸収直後に,共振器に静電的に結合した量子ビットの共鳴周波数変化を測定して,冷却直後の光子数を評価した。実験では,QCRによる冷却時間を変化させ,共振器中の光子数が時間的にどのように変化しているか測定した。
その結果,超伝導共振器中にマイクロ波によって導入した3個程度の光子をおよそ50ナノ秒で0.07個以下に低減できることがわかった。これは,QCRを使用しない場合と比べて,およそ15倍高速に超伝導共振器中の光子が減少していることを示している。
また,この研究では,共振器中に熱的に励起された,1粒に満たないわずかな光子を量子回路冷却によって低減できることも実証した。
さらに,その共振器中に熱的に励起された光子を超伝導・常伝導接合によって100ナノ秒程度だけ吸収し,超伝導量子ビットによって光子数を測定した。その結果,1粒以下のわずかな光子であっても,100ナノ秒という短時間で,冷却前に比べて光子数を低減できることを初めて示した。
この研究は,光子数が1に満たない量子領域にある超伝導共振器に対して,高速な量子回路冷却が有効であることを意味している。また,熱の影響によりその量子性が失われてしまう量子回路を,量子回路冷却技術によって保護できる可能性を示した。
研究グループは,今後は,この測定技術を用いて,超伝導量子ビットのさらに高速で高忠実度な初期化を目指した素子開発や評価を行なうとしている。