日本電信電話(NTT),東京大学,米マサチューセッツ大学,情報通信研究機構(NICT),理化学研究所は,シュレディンガーの猫状態と呼ばれる強い量子性(非古典性)を有する光量子状態の生成レートを,従来手法より1000倍程度高速化することに成功した(ニュースリリース)。
誤り耐性型光量子コンピュータを実現するためには,誤りを検知し訂正するための論理量子ビットが必要不可欠。東京大学をはじめとする研究グループは,光パルスを用いた論理量子ビット生成の実証実験に成功し,誤り耐性型光量子コンピュータの実現への道筋が示されていた。
しかしながら,実証実験レベルから実用レベルへ移行するためには,その論理量子ビットの生成確率を上げる必要がある。例えば,現在広く用いられている古典コンピュータのクロックレートはギガヘルツ(GHz)の水準に達する一方で,高い非古典性を有する光量子状態の生成手法は基本的に確率的であり,その生成レートはキロヘルツ程度に留まっていた。
研究グループは,光パラメトリック増幅器(OPA)をスクイーズド光源として,数MHzのスクイーズド光源の帯域を6テラヘルツに拡張した。さらに,ホモダイン測定器の前にOPAを量子的な位相敏感増幅器として用いたことで,測定系を100MHzから70GHzに高速化(700倍)し,高速な光量子状態の生成を実現した。
このOPAを補助的に用いた高速ホモダイン測定技術は,東京大学とNTTの研究グループが実験的に確立した新技術であり,今回の研究ではこれを初めて非古典的な量子状態生成へと応用した。この状態の生成レートは,約1MHzに達しており,従来のシュレディンガーの猫状態生成と比べて3桁程度生成レートが改善されている。
現状の系ではホモダイン測定系の帯域が70GHzになっているが,光子検出器の性能が量子状態の帯域を1GHzへとさらに制限している。もしもホモダイン測定器の帯域全体を使うことができれば,さらに70倍の高速化が見込まれるという。
従来の非古典的な量子状態生成の実験では,光子検出器が最も高速かつ広帯域な素子として動作していた。一方で,今回の光源及び新規の高速な測定手法の確立によって,光子検出器の性能による帯域の制限についても,実験的な観測が可能となったという。
研究グループは,これにより得られた新たな知見から,準決定論的な状態生成が可能になり,超高速光量子コンピュータの実現が期待されるとしている。