沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究グループは,これまでの先端半導体製造の常識を覆すEUVリソグラフィー(極端紫外線露光技術)を提案した(ニュースリリース)。
EUVでは透過させるガラスのような透明な材料がないため,レンズの代わりに反射ミラーを使う。しかし多数の反射ミラーを一直線に並べると光はまっすぐに通り抜けることができないため,現在実用化されているEUVリソグラフィーでは,反射ミラーを三日月のような形にし,空いた隙間をぬったEUV光を,往復する光路にそってジグザグに通過させる手法が採用されている。しかしこの方法では,光線が中心軸から遠く離れた所を走るため,数々の光学特性が犠牲になってしまう。
またEUVエネルギーはミラーでの反射ごとに40%ずつ減衰するため,従来技術では,EUV光源から10枚のミラーを通って,ウエハーに到達できるエネルギーは,わずか1%程度となる。このため,EUV光源用のドライブCO2レーザーに多大な電力が必要となり,同時に膨大な量の冷却水を必要とする。
今回研究グループが開発したリソグラフィー技術は,2枚の軸対称な,中心に小さな穴の開いたミラーを直線上に並べることで,本来の優れた光学特性を達成できる。また,EUV光源からウエハーまで4枚(4段)のミラーしかなく,ウエハーに10%以上のエネルギーが到達できるため,出力が20Wの小型EUV光源でも動作し,消費電力は1/10となる。
従来のEUVリソグラフィーでは,少なくとも6枚の反射ミラーが必要とされてきたが,光学の収差補正理論を慎重に見直すことで今回の成果となった。詳細な性能は光学シミュレーション・ソフトウェアを使って検証済だとする。
さらに「二重露光フィールド」と名付けた新技術で,平面ミラーのフォトマスクを,光路を邪魔せずに正面からEUV光を照射する新方式の照明光学系を考案し,EUVリソグラフィー特有の問題であるマスク3D効果を最小限に抑えることに成功した。
この技術は,OISTが特許出願済みで,今後,実証実験を経て産業界での実用化が見込まれているという。研究グループは,この技術が半導体業界に変革をもたらし,エネルギー消費や脱炭素化といった世界的な課題の解決に貢献することを期待するとしている。