産業技術総合研究所(産総研)と横浜国立大学は,光格子時計によって高精度な時刻系を230日間連続して生成することに成功した(ニュースリリース)。
光格子時計を用いて原子時計の周波数を調整し,精度が高く安定した時刻系を生成することは,秒の再定義に向けて達成が望まれている。
産総研では,連続運転が可能な原子時計である水素メーザー原子時計の周波数を手動で調整して時刻系を生成しているが,光格子時計を用いて調整すると,さらに精度の高い時刻系の生成が期待できる。
しかし,これまでは光格子時計を低い稼働率でしか運転できなかったため,光格子時計の停止期間に原子時計の周波数を正確に調整することが困難だった。
時間周波数国家標準UTC(NMIJ)は,水素メーザー原子時計と周波数調整器で構成されている。従来,手動で周波数調整を行なって,協定世界時(UTC)とUTC(NMIJ)の時刻差を数十ナノ秒以内に抑えてきた。
今回,水素メーザー原子時計の周波数を光格子時計で測定し,水素メーザーの周波数のゆらぎを自動で補正することで,UTC(NMIJ)の周波数をできるだけUTCに近くする手法の提案を行なった。
UTCとUTC(NMIJ)の周波数が近いと,UTCとUTC(NMIJ)の時刻差を小さく抑えることができる。この手法自体は先行研究があるが,一般的に光格子時計の長期間の連続運転が困難であるため,光格子時計の運転は間欠的(稼働率<20%)なものだった。
光格子時計の停止期間には水素メーザー原子時計の周波数ゆらぎを完全に把握できず,停止期間が長いとUTCからの時刻差を大きく広げてしまうことがある。研究では,過去に達成した光格子時計の高稼働率運転(稼働率>80%)により,時刻差の広がりを抑えることを目指した。
今回,過去に高い稼働率での運転に成功した光格子時計のデータを用いて,その際の水素メーザー原子時計の周波数を調整することで,光格子時計を基準とした時刻系を生成した。
この時刻系は,230日間にわたって,その当時の国際的な時刻の標準である協定世界時(UTC)との時刻差±1ns以内という世界最高水準の同期精度を達成できた。また,他機関で同じ230日間に生成された世界最高水準のUTC(k)と比較しても,より高い同期精度を示た。
これらの機関では,セシウム原子泉時計などの高精度なマイクロ波原子時計を高い稼働率で運用して同期精度向上に利用しているが,比較結果は,時刻系の生成において光格子時計の優位性を示唆した。
研究グループは,この研究成果により,秒の再定義に向けた検討の加速が期待されるとしている。