理研ら,トリウム229のアイソマー状態の寿命を決定

理化学研究所(理研),東北大学,金属材料研究所は,高エネルギー加速器研究機構は,イオントラップに捕獲されたトリウム229のアイソマー状態の寿命を決定した(ニュースリリース)。

トリウム229の原子核は,超低エネルギー原子核励起状態を持っており,レーザーで励起できる。この励起状態へレーザーで励起すると原子核時計と呼ばれる極めて正確な周波数標準が実現できると期待されている。しかし,その実現に不可欠なパラメーターである,トリウム229のアイソマー状態の寿命は分かっていなかった。

研究グループは今回,トリウム229をイオントラップに捕獲する装置を開発した。トリウム229のイオンを作るために,ウラン233を使った。ウラン233はアルファ崩壊してトリウム229になる。

そのため,ウラン233を金属基板の表面に付着させておくと,トリウム229イオンが反跳イオンとして生成され金属基板の表面から飛び出してくる。飛び出してきたトリウム229イオンを,RFカーペットと命名されたイオン収集装置でイオンビームとして取り出し,イオントラップまで輸送した。

ウラン233がアルファ崩壊すると,2%の割合でアイソマー状態のトリウム229になる。すなわち,トラップされたトリウム229イオンの集団には,2%のアイソマー状態のトリウム229イオンが含まれている。この研究では,これら2%のアイソマー状態のトリウム229イオンを選択的に検出する手法を開発し,アイソマー状態の寿命を測定した。

波長690nmと984nmのレーザーをイオンに照射すると,2F5/22F7/2の二つの状態の間を何度も遷移する。この過程で,イオンはそれぞれの波長の光を放出するため,その発光をカメラで検出した。

原子核が基底状態かアイソマー状態かで,波長984nmの遷移の共鳴周波数は,わずかに異なる。そこで,原子核が基底状態にあるイオンだけがよく光る周波数,アイソマー状態と基底状態の両方のイオンがよく光る周波数の二つを見つけ出し,両方の周波数で取得したデータの差を取ることで,アイソマー状態の信号を検出した。

さらに,波長1,088nmの遷移に共鳴するレーザーを追加で照射することで,アイソマー状態の信号を,より精度よく取得する方法を考案した。そして,基底状態とアイソマー状態の信号強度の減衰速度の違いから,アイソマー状態の寿命を1,400(+600/-300)秒と決定した。

研究グループは,この結果は,原子核時計実現に向けた大きな前進であり,原子核時計による基礎物理定数の恒常性の検証といった物理学の根幹に関わる研究への道を開く成果だとしている。

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