産総研ら,光格子時計と原子泉時計で暗黒物質を探索

産業技術総合研究所(産総研)と横浜国立大学は,イッテルビウム光格子時計とセシウム原子泉時計の2台の高精度な原子時計を用いて,宇宙に大量に存在しているものの正体が解明されていない暗黒物質(ダークマター)の探索を行なった(ニュースリリース)。

原子時計は,基礎物理定数の周期的な変動を高感度で検出できる能力があるため,暗黒物質研究において近注目を集めている。光格子時計やセシウム原子泉時計といった最高精度の原子時計を用いることは,超軽量暗黒物質の検出感度を上げるために有効。

この組み合わせは,光格子時計のみを用いた探索では分からない電子質量の周期的な変動に感度があるが,セシウム原子泉時計は光格子時計に比べてノイズが大きいため,両方を長期間(例:10日以上)高い稼働率で同時に運転することが重要になるが,光格子時計の長期運転は困難だった。

産総研は,光格子時計とセシウム原子泉時計を同時に高い稼働率で比較できることから,この技術を暗黒物質の探索研究に応用した。なるべく長い観測期間を確保するために,測定は40日間行ない,2台の同時稼働率がそれぞれ64.4%,74.5%という高稼働率の運転に成功した。

このデータに対して,さまざまな周期を仮定して正弦曲線によるフィッティングを繰り返し,ある特定の周期で大きな振幅が得られるか探索した。主にセシウム原子泉時計のランダムなノイズによるデータのバラつきも,長期運転で得られた大量のデータの平均化により,高い精度で探索が可能になった。

測定データから,光格子時計とセシウム原子泉時計の周波数比が周期的に変動する証拠は得られなかった。しかし,光格子時計とセシウム原子泉時計の長期比較という新手法を用いたため,周期10日~298日の電子質量の変動がなく,あるとしてもその振幅は15桁目以下という知見が得られた。

超軽量暗黒物質の理論を考慮に入れて解析を行なった結果,質量範囲10-58kg~10-56kgにおいて,超軽量暗黒物質と電子との相互作用の強さについて探索領域を広げることに成功した。

暗黒物質の候補として素粒子から天体まで幅広い質量のものが提案されているが,理論のみで質量範囲を絞り込むことが困難なため,とにかく実験・観測で未探索領域に踏み込んでいくことが重要とされているという。今回の成果は,原子時計の長期運転が時間標準だけでなく,基礎物理学にも貢献することを示したとする。

研究グループは,今後も原子時計の高精度化,堅牢化を進めることで,本来のミッションである国際原子時への貢献を継続しつつ,暗黒物質をはじめとする基礎物理学の研究も推進していくとしている。

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