東大,光格子時計の高精度化に必須な連続原子源開発

東京大学の研究グループは,レーザー冷却された原子を光ベルトコンベアで引き出し,さらに交差する光ベルトコンベアで運動方向を変えて出力する連続原子源を初めて開発した(ニュースリリース)。

レーザー冷却法は量子計測に欠かせない極低温原子を生成する手法だが,冷却過程で発生する光が原子の量子状態を乱すことから,レーザー冷却と高精度な量子計測は同時に行なえなかった。

光格子時計の実現においては,①レーザー冷却によって極低温原子を生成し光格子に捕獲する操作と,②その原子のスペクトルを参照して時計レーザーの周波数を計測し制御する操作を順次繰り返す。

これにより時計レーザーの周波数精度は改善するが,時計レーザーの周波数測定の間に,レーザー冷却を行なう「無駄な時間」が挟まれるのが問題だった。

もし,時計レーザーの周波数を「無駄時間」を挟まずに時間τの間,連続して観測することができれば,周波数測定精度はそのフーリエ限界のΔν=1/τで改善するため,量子計測の高精度化の手法として期待される。

実験ではまず,棒磁石等で作られる異方性の大きな四重極磁場中で,1S – 1P1遷移を使った磁気光学トラップによって,ストロンチウム原子を1mK程度まで冷却し,捕獲する。この冷却サイクルを繰り返す間に,この原子は約100秒の寿命をもつ準安定状態( 3P状態)に緩和する。

この状態の原子は磁気モーメントをもつため,先の四重極磁場により磁気トラップされる。第二のステップでは,この原子を3P2 – 3D遷移に近共鳴なレーザー光でさらに冷却し,光格子に捕獲する。この2段階冷却により熱原子を連続的に冷却し,光格子に捕獲することができる。

今回,原子のベルトコンベアとして機能する移動光格子を使って,レーザー冷却された極低温原子を連続的に引き出し,さらに,交差する移動光格子に載せ換えることで,原子の運動方向を変えることに成功した。

レーザー冷却部から運ばれてきた極低温原子が,直交する移動光格子に乗り換えて,運動の向きを変える交差領域では,直交する移動光格子の干渉で形成される「斜め45°の方向に動く」移動光格子に捕獲されて原子が移動する様子が観測された。

こうした移動光格子に捕獲された原子に対して,原子の進行方向から(縦方向)レーザーを導入し,原子分光を行なう縦励起分光法と,これを利用した「無駄時間なし測定,制御」による光格子時計の高精度化の手法が提案されている。

研究グループはこの成果が,この縦励起分光法を実装して,光格子時計の高精度化を行なうための重要な技術基盤だとしている。

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