レーザー核融合研究を振興するIFEフォーラムは3月7日,東京商工会議所(東京都千代田区)にて,公開シンポジウム「レーザーフュージョンエネルギー ∸学術から産業へ新たな展開ー」を開催した。これは,米国立点火施設(NIF)におけるレーザー核融合点火・燃焼の実証を受け,その実現に注目が集まるレーザー核融合エネルギーの可能性を,レーザー核融合の第一人者が集まって議論するイベント。
わが国でも官民を通じてその期待は高まっており,この日は内閣府,文部科学省,経済産業省が開会の挨拶を通じてその期待を述べるとともに,NIFのある米ローレンスリバモア国立研究所(LLNL)上級顧問 ジョン・エドワーズ氏をはじめとする5名のレーザー核融合のキーマンが登壇し,現状とその実現に向けた取り組みについて様々な角度から講演した。
LLNL上級顧問のジョン・エドワーズ氏は,同所長のキム・ブディル氏の来日が急遽キャンセルとなったため,代理として「レーザー核融合点火燃焼」と題した発表を行なった。LLNLの施設であるNIFでは2020年12月にはじめて核融合の点火に成功しており,それまでの道筋と,これからの核融合研究の方向性について説明するとともに,より効率的なエネルギーの生成方法の開発と,レーザー技術のさらなる進化について語った。
そしてレーザー核融合が科学的技術開発において成熟してきたこと,エネルギー源として高いポテンシャルを秘めていることを強調した。さらに,レーザー核融合が海水から無尽蔵に供給できるクリーンエネルギーの究極の形態であるとし,日本の研究者との協力も通じて,2030年代の実現に挑むとした。
米カルフォルニア大学特別教授,Blue Laser Fusion CEOの中村修二氏は,「ゲームチェンジできるレーザー核融合」と題し,磁場とレーザー核融合について発表した。昨年のNIFでの点火成功に触れ,アメリカでは磁場閉じ込め方式より標準的なDT反応によるレーザー方式に核融合技術の主眼が移っているとした。
一方,同氏がCEOを務めるBLF(Blue Laser Fusion Inc)が取り組む,独自のオプティカルエンハンスメントキャビティ方式(OEC)と新型燃料によって,DT方式で課題とされてきたレーザーの連続発射とレーザー効率の向上,中性子発生の問題解決が可能になるとした。さらに他の研究との比較によるOEC方式の長所を説明するとともに,今後の戦略提携,開発・実証炉建設ロードマップについて触れた。
大阪大学レーザー科学研究所所長の兒玉了祐氏は,「レーザー核融合研究の拡がり」としてレーザー核融合研究の広がりに関して講演した。同氏は,これまでの実績を基盤に,レーザーフュージョンエネルギー実現へ向けた工学的アプローチへ移行する時だとしており,MWレーザーの基本ユニットとなる10kWレーザー「SENJU」について2026年頃までに小型化・高効率化を目指していることにも触れた。
また,エネルギー資源がない日本にこそ,独自の戦略で,一早くレーザーフュージョンを実用化し世界を先導できると述べた。そして「多様な知が活躍できるパワーレーザー国際共創プラットフォーム:J-EPoCH計画」の推進について触れ,レーザーフュージョンエネルギーに不可欠な多様で大量なサプライチェーン構築に喫緊に取り組むべきであるとした。
EX-Fusion CEOの松尾一輝氏は,レーザーフュージョンエネルギー実現に向けて,利点や課題について,「レーザー核融合エネルギー実現へのステップ」と題して講演した。商用炉の実現に向けて,高出力/高繰り返しレーザーが求められているが,レーザーを高度に制御しなければいけないことから,デモンストレーターを作製しており,現在,照射のタイミングを合わせる技術開発を通じて完成したテスト機を改良しているという。
また,名古屋大学と共同で開発する,大型でかつ高精度なレーザー光学機器や,燃料ペレットの量産に向けてペレットの自動検査システムとインジェクター,ブランケットシステム・海水の淡水化及びリチウムを含む海水中の希少資源を回収できるシステムの開発についても触れた。
九州大学都立研究センター・核融合エネルギー部門 部門長・准教授の武田秀太郎氏は,「フュージョンエネルギーを取り巻く環境」として,フュージョンエネルギーが取り巻く環境について数字を用いて講演した。
昨年1年間の核融合スタートアップの数を見ると,2022年までは35社程度であったが,現在は43社まで右肩上がりに増加している。また,昨年1年間の新たな追加投資額は2,106億円で,累計で9,304憶円,さらに民間投資が政府予算を上回るなど,こちらも盛り上がりを見せているとした。
また,米やEUなど各国の核融合政策や開発ロードマップ比較,特に英の研究体制の現状を詳細に説明するとともに,今後の見通しについても述べ,英政府の国家戦略が触れた将来の核融合マーケット規模が1,000兆円であるといった規模感や産業化へのロードマップについて触れ,世界的な期待感を示した。