名古屋大学と東京都立産業技術研究センターは,押圧により色が変化するメカノクロミック材料とセルロースナノファイバー(CNF)を用いて,機械的な圧力に応じて黄色から緑色へ色が変わる紙を開発した(ニュースリリース)。
メカノクロミズム現象はその刺激応答性から,圧力センサー,記録デバイス,ディスプレイデバイスなどへの応用が期待されている。研究グループは以前の研究にて,立体的に混みあった構造をもつ化合物が機械的刺激に応じて黄色から緑色へと見た目の色を変化させる特殊なメカノクロミズムを示すことを発見した。
この研究ではFA化合物をCNFに混ぜ込むことで,押圧により色が変わるメカノクロミックペーパーを開発した。CNFとは木材を機械処理や化学処理によりナノサイズまでほぐした天然物由来の材料。その強度の高さや軽量性・安全性・低環境負荷などの特徴から,建築・食品・化粧品・電子デバイスなど多様な分野において研究や実用化が進められている。
この研究では,繊維径の異なる3つのCNFを用いてそれぞれメカノクロミックペーパーを作製した。CNFを溶かした水溶液にFA化合物を混ぜ込み,型に流し込んで乾燥させるというシンプルな手順で作製が可能であり,FA化合物の粉末のみの場合と同様に,機械的刺激により黄色から緑色へと色が変化することを確認した。
また,圧力応答した緑色の部分は,アルコールとの接触により,応答前の黄色へ戻ることを確認した。これは,メカノクロミックペーパーが繰り返し使用可能であることを示している。また,走査電子顕微鏡観察注や接触角測定注などを用いた表面の解析によって,色の戻り易さがCNFの繊維径に起因していることを明らかにした。
さらに,機械的圧力応答性を定量的に議論するため,ナノインプリントと紫外可視分光法を組み合わせた圧力応答測定を行った。ナノインプリントにより垂直応力を加えたサンプルに対して紫外可視分光法により被加圧範囲の吸収波長を測定すると,25~300MPaの範囲で機械的圧力に対して線形応答を示した。
また,より簡便な検出方法として,CYM色彩解析を用いた画像処理法を検討したところ,紫外可視分光法と同様に線形応答し,かけた圧力が定量的に測定された。これにより繰り返し利用可能な圧力測定紙として利用できることが示された。さらに画像処理法では色の濃淡を抽出できるため,押圧の強さの分布を可視化することが可能となった。
研究グループは,CNFは植物がCO2を取り込んだ脱炭素社会に貢献する次世代材料として大変に期待されており,この研究の成果はCNFのさらなる応用研究の発展に貢献するとしている。