量子科学技術研究開発機構(QST)と広島大学は,量子マテリアルの機能発現のカギとなる「電子にはたらく特殊な力(量子多体効果)の強さ)」をマイクロメートルの精度で可視化できる顕微解析技術の開発に成功した(ニュースリリース)。
高エネルギー・波数分解能でのARPES計測(高分解能ARPES)を用いることで,量子多体効果の強さを「測る」ことができる。また,近年,開発が進む高空間分解能でのARPES計測(顕微ARPES)を用いると,低分解能ではあるものの電子状態の実空間分布を「見る」ことが可能となっている。
しかし,ARPES計測において「高分解能で測る」ことと「高空間分解能で見る」ことを同時に達成することは困難で,「量子多体効果の強さの可視化(イメージング)」は,これまで実現されていなかった。
今回,高輝度・高指向性の光源(レーザー)を活用することで,「測る」と「見る」の両方を追求した高分解能・顕微 ARPES 計測技術を開発し,「ミクロの世界で量子多体効果を測ること」を実現した。
従来技術と比較すると,20倍以上の高い空間分解能(画素数で400倍以上の高解像度)で量子多体効果を「見る」ことを実現した。また,機械学習(教師なし学習)の一種であるクラスタリングを活用し,類似した傾向を有する顕微データ同士のみを比較することで,本質的な量子多体効果の強さを「測る」ことを可能にした。
これにより,量子マテリアルに内在する空間不均一性を平均化せずに「見る」ことで,量子多体効果を「測る」精度が数倍向上することを見出した(従来比2.5-10 倍)。
実際に,この技術を銅酸化物高温超伝導体に適用したところ,電子とフォノンや電子同士の結合の強さといった量子多体効果の強さの空間分布をマイクロメートルオーダーで可視化(イメージング)することに成功した。
その結果,銅酸化物の超伝導転移温度に直接関わる酸素量と量子多体効果の強さには相関があり,高温超伝導特性が量子多体効果の強弱に応じて変化することを実証した。
この成果は,ミクロの世界で量子多体効果の強さや指向性(方向依存性)を定量的に評価できる顕微イメージング技術を世界で初めて創成することに成功したもの。
この技術は,より高輝度で微小な光源を用いるほど,高解像化が可能になる。現在,QSTは世界最高レベルの放射光施設ナノテラスの建設・整備を進めている。今後,ナノテラスで利用可能な高輝度・微小ビームサイズの軟X線放射光を組み合わせることで,フォノニクスやスピントロニクスなど次世代デバイスへ向けた量子マテリアルの研究の進展が期待されるとしている。