理化学研究所(理研)は,シングルサイクルレーザーをテラワット(TW)級のピーク出力にまで高強度化できる,新しいレーザー増幅法の開発に成功した(ニュースリリース)。
シングルサイクルレーザーは極めて時間幅が短い光で,パルス幅の中に光電場振動が1回しか含まれない。その極短パルス性のため,パルスエネルギーを高出力化できるレーザー増幅技術はこれまで存在しなかった。
研究グループは,2011年に開発した「二重チャープ光パラメトリック増幅(DC-OPA)法」を基本原理としつつ,そのレーザー増幅媒質に異なる増幅波長域を持つ非線形結晶を使用する手法を考案した。
それぞれの非線形結晶(酸化マグネシウム添加ニオブ酸リチウム(MgO:LiNbO3),三ホウ酸ビスマス(BiB3O6))が担当する波長域を分けることで,一つの結晶ではカバーできない増幅域を互いに補い,1オクターブを大きく超える増幅帯域を実現した。
この新手法はDC-OPAが持つレーザー出力スケーリング特性を損なうことなく,その増幅帯域を超広帯域化できる。DC-OPA法においては,シード光とポンプ光間の分散量(チャープ量)と符号の関係が,増幅効率および増幅帯域を決定する重要なパラメーターとなる。
そこで,シード光には音響光学素子を用いて,ポンプ光にはチャープ調整器を用いて,個別に分散を与える。付加された分散によりパルス幅が伸ばされたチャープシード光は,MgO:LiNbO3結晶による予備増幅段,およびBiB3O6とMgO:LiNbO3の結晶により構成された3段のDC-OPAを通してチャープポンプ光により増幅される。増幅後の光パルスは,パルス圧縮器によりシングルサイクルにまで圧縮される。
シード光は1.4~3.0μmの帯域を持ち,そのスペクトル帯域を保ったまま3段のDC-OPAにより増幅される。DC-OPA増幅3の後のパルスエネルギーは53mJであり,スペクトル構造からその中心波長は2.4μmと評価された。
DC-OPA法で増幅された光パルスは,サファイアを用いたパルス圧縮器により,音響光学素子で与えた分散量を補償され時間圧縮される。中心波長2.4μm光のパルス圧縮の結果は,8.6フェムト秒のパルス幅が達成された。
この結果,中心波長2.4μmの中赤外レーザーにおいて,出力エネルギー53mJ,ピークパワー6TWのシングルサイクルレーザーが発生していることが明確に確認された。これらの値はシングルサイクルレーザーとして世界最高出力。
研究グループは,今回の開発成果が,アト秒レーザーの次の世代となるゼプト秒レーザー研究の扉を開く端緒となるとしている。