東大ら,鉄と酸素をつなぐリガンドホールを観測

東京大学,理化学研究所,高輝度光科学研究センター,近畿大学,大阪大学は,ストロンチウム鉄酸化物SrFeO3のリガンドホールの観測に成功した(ニュースリリース)。

通常,酸化物では酸素原子は2価のマイナスイオンとして存在する。一方,銅を含む酸化物高温超伝導体では,酸素周りの電子が,わずかに銅の周りに移動していると言われている。

この電子の移動は,高温超伝導と密接に関わっていることが知られている。酸素周りの電子が少なくなった部分(リガンドホール)の存在は,長年,X線分光測定や理論計算から予想されていたが,その空間的な分布状態(どこにリガンドホールが存在するか)は解明されていなかった。

研究グループは,大型放射光施設SPring-8におけるX線回折実験と,独自に開発したコア差フーリエ合成(CDFS)法という解析手法を組み合わせることで,ペロブスカイト型酸化物SrFeO3におけるリガンドホールの空間分布の直接観測を試みた。

リガンドホールの存在を確かめてその分布を特定するためには,価電子密度の空間分布をより詳細に調べる必要がある。そこで,鉄原子と酸素原子の周りの価電子密度について,その方向依存性のみを抽出した。その結果,鉄原子の周りでは,酸素原子に向かう方向で僅かに電子密度が低くなっているのがわかった。

それぞれ,4価の鉄イオンと3価の鉄イオンを仮定した場合の理論計算では,純粋な4価の場合には大きな方向依存性が予想され,今回CDFS法で得られた結果とは一致しない。

CDFS法で得られた結果と理論計算を比較して鉄イオンの実質的な価数を見積もるとおよそプラス3.4となり,4価と3価の中間的な状態であることがわかった。このことは,マイナス2価のはずの酸素イオンからプラス4価のはずの鉄イオンにマイナスの電気を持つ電子が僅かに移動していることを示唆している。

そこで,次に酸素原子の周りの価電子密度を丁寧に調べた。すると,マイナス2価の酸素イオンで予想される等方的な分布とは異なり,鉄原子に向かう方向で価電子密度が低くなっていることがわかった。

これは鉄原子の方を向いた軌道にいるはずの酸素イオンの電子が鉄原子の周りの軌道に移ったことを示している。つまり,酸素原子と鉄原子の間に存在するリガンドホールを初めて捉えることに成功した。

リガンドホールを実験的に観測できるようになったことは,高温超伝導の発現機構の解明だけでなく,さまざまな機能性材料開発への情報提供にもつながるとしている。研究グループは,この研究で用いた実験技術は全ての結晶性材料に適用することが可能で,様々な物質の電子状態の解明にも役に立つとしている。

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