日本電信電話(NTT)と東京工業大学は,300GHz帯のフェーズドアレイ送信モジュールを開発し,ビームフォーミングを用いた300GHz帯高速無線データ伝送に初めて成功した(ニュースリリース)。
6Gでは300GHz帯の高速無線通信が期待されているが,300GHz帯の電波は広い帯域を利用できる一方,伝搬損失も大きい。そこで,受信端末に向けて電波のエネルギーを集中させるビームフォーミング技術が検討されている。
この技術は,28GHz帯や39GHz帯の電波を使用する5G無線システムにおいてCMOS-ICによって実現されてきたが,300GHz帯においてCMOS-ICのみでは出力電力が不足するため,高出力なIII-V族の化合物ICとの組み合わせによる実現が期待されている。しかし,化合物IC内やCMOSICとの接続部で発生する損失の問題があった。
今回,東工大は周波数変換回路や制御回路等を搭載した高集積なCMOS-ICを作製し,NTTは独自のインジウム・リン系ヘテロ結合バイポーラトランジスタ(InP HBT)技術で高出力なパワーアンプ回路とアンテナを一体集積したInP-ICを開発した。
このCMOS-ICとInP-ICとを同一プリント基板上に小型実装した4素子フェーズドアレイ送信モジュールを実現した。このモジュールは36度の指向性制御範囲と通信距離50cmにて最大30Gb/sのデータレートを達成。300GHz帯において,ビームフォーミングを用いた高速無線データ伝送に初めて成功した。
この成果では以下の2つの高出力化技術を用いた。
①300GHz帯で高い出力電力を実現可能なパワーアンプ回路を設計し,NTTのInP HBT技術で製造。パワーアンプ回路では複数の増幅素子から出力される電力を独自の低損失合波器を用いて束ねることで高出力化を図った。
この回路でCMOS-ICから出力される信号を増幅し,同一チップ上に形成されたアンテナから受信端末に向けて電波を放射することで,高速データ伝送に必要な大きな電力を受信端末に送り届けることができる。
②従来,300GHz帯で異なる種類のIC同士を接続するには,それぞれのICを導波管モジュールに実装して接続するが,損失が問題だった。今回,両者を同一基板上にフリップチップ実装し,数十µmの微小な金属バンプを介して接続し,接続損失を低減して高出力化を実現した。
研究グループは今後,2次元アレイ化よる2次元ビームフォーミングの実証やアレイ数を増やすことで通信距離の拡張等に取り組む。また利用用途に応じた受信モジュールも開発し,従来比10倍以上の伝送容量を有する無線通信をめざす。