名古屋大学,スイス チューリッヒ工科大学,米マサチューセッツ工科大学,米ノースカロライナ州立大学らは,約129億年前の太古の宇宙において,若い星形成銀河が周囲の銀河間ガスを電離し,「宇宙再電離」を引き起こしている現場を直接観測することに世界で初めて成功した(ニュースリリース)。
宇宙再電離は,宇宙の歴史において最後に起こったガスの大転換。再電離では,宇宙の水素ガスのほとんどが,中性原子の形から高温プラズマに戻る。この宇宙再電離は,ビッグバン後,約1億5千万年から10億年の間に起こったが,その原因の特定は困難で,粒子崩壊などのさらにエキゾチックな「新しい物理」の可能性も提案されている。
研究グループは,「EIGER 計画」と名付けられた,ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)を用いた深宇宙探査プロジェクトを遂行している。このプロジェクトは,JWSTのNIRCam(近赤外線カメラ)装置を広視野スリットレス分光モードで使用し,宇宙再電離の最終段階に相当する赤方偏移範囲5.3<z<6.9(ビッグバン後約7億5千万年から11億年の時代)の銀河を検出し,その赤方偏移(距離)を測ることを目的としている。
スリットレス分光モードは,天球球面上の観測領域に存在するすべての天体のスペクトルが記録できるため,ある明るさ以上の全ての銀河について取りこぼしな調査を行なうことができる。
観測では,ビッグバン後7億5千万年から11億年の時期の星形成銀河を高効率で検出し,世界最大の分光銀河サンプルを構築した。また,銀河の空間分布とクェーサーの地上観測によって得られた銀河間ガスの物理状態を比較することで,銀河が周囲のガスを電離し,宇宙再電離を推し進めている直接的な証拠を得た。
この成果は,現代宇宙論・天体物理学の長年の問いであった宇宙再電離の原因を特定し,若い星形成銀河が主要な原因であることを直接的に示したもの。
「EIGER 計画」は宇宙再電離中期から後期にかけての描像の確立を目指している。この研究から得られる知見は,2030年代以降に実現を目指している,中性水素21cm線観測による宇宙再電離初期および暗黒時代の観測的研究のための土台を提供するものだという。
研究グループは,この成果について,宇宙史を切れ目なく理解するという,究極的な目標における重要な一歩になるとしている。