北海道大学と九州大学は,極めて柔軟で複数の構造を発現可能なキノジメタン型分子を合成し,結晶中の分子構造により結晶の色調や発光が劇的に変化することを明らかにした(ニュースリリース)。
炭素=炭素(C=C)二重結合は通常平面構造を示すが,大きな置換基を周囲に導入することで折れ曲がり構造やねじれ構造といった複数の構造をとる場合がある。これらの分子構造によって物性(色調や発光特性)が変化することが知られているが,複数の構造を取り出し評価することは通常難しい。
これは,溶液中ではどちらかの状態,あるいは平均化された状態の物性を観測することになるため。また,分子運動がほとんど起こらない結晶中でも,通常は安定構造のみが観測され,二種類の構造を発現させることに成功した例はごくわずかだった。
研究グループは,C=C二重結合周りの構造変化が自由に起こるような分子を設計することで,二種類以上の分子構造とそれに基づく物性を取り出すことが可能と考え,キノジメタン骨格そのもののねじれが誘起されるような分子設計を施した誘導体を設計,合成した。
その結果,メチル体(R=メチル)について,酢酸エチルとヘキサンを用いて再結晶を行なうと,濃赤色の板状結晶が得られた。一方,酢酸エチルとエタノールから再結晶を行なうと,黄色の板状結晶が得られた。これらの結晶の色は,ねじれ構造と折れ曲がり構造の結果であり,紫外光を照射するとそれぞれ赤色と黄色の発光を示す。
検討の結果,酢酸エチル,エタノール,ヘキサン,クロロホルム,ジクロロメタンの5種類の溶媒の組み合わせから,9種類もの結晶が得られ,C=C二重結合のねじれ具合によって結晶の色調及び発光色が黄色から赤色へと変化することを明らかにした。さらに,これらの構造及び色調/発光特性はすりつぶしといった機械的刺激によっても制御できる。
以上のように,結晶中の分子構造に基づく色調/発光特性を結晶化という操作によって取り出すことができた。すなわち,結晶の色によって分子構造そのものを予測することが可能だとする。
研究グループは,結晶の色,取り込まれた溶媒分子,分子構造のパラメータに関するデータを集めることで、多くの溶媒分子に応答可能なセンサー材料としての応用が期待されるとしている。