早稲田大学と国立天文台は,これまで確認されていなかった特異な「赤い渦巻銀河」を発見し,さらにそれが80億年から100億年前という初期の宇宙に存在することを明らかにした(ニュースリリース)。
我々の住む天の川銀河もそのひとつである渦巻銀河は,銀河中心に「バルジ」と呼ばれる楕円体の構造を持ち,特徴的な渦巻状の腕「渦状腕(かじょうわん)」を持つ。現在の宇宙にある渦巻銀河は多くが比較的活発な星形成活動を行なっている。
これまで,このような渦巻構造を持つ銀河がいつ・どのように生まれ,どれほど過去の宇宙に存在するのか,分かっていなかった。特に,80億年以上前の初期宇宙では渦巻銀河はほとんど発見されておらず,現在に近い時代の宇宙にしか存在しないと考えられてきた。
また近年,日本のすばる望遠鏡によって行なわれた大規模な探査によって,現在の宇宙にある渦巻銀河の98%は比較的活発な星形成活動を行なっており,星形成活動が止まってしまった「年老いた」渦巻銀河は2%程度しか存在しないことが明らかになった。
年老いた渦巻銀河の数が少ないということが,現在の宇宙だけの特徴なのか,それとも過去の時代の宇宙にある銀河を見れば現在とは異なる様子が見られるのかという疑問に対しては,望遠鏡の感度や空間分解能の制限から答えを得られていなかった。
研究グループは,2022年から運用を開始した米国NASAの宇宙望遠鏡ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)のデータ,特に,これまでの観測では捉えられていなかった特異な銀河「赤い渦巻銀河」に注目。これらの「赤い渦巻銀河」はこれまで,空間分解能や感度の制限からその詳細な形態や性質は知られていなかった。
研究グループがパイロット調査として,最も赤い色を持つ2つの銀河について,JWSTから得られた測光データや分光データを元に分析を行なった。その結果,これらの赤い渦巻銀河が,80億年から100億年程度過去の,初期宇宙に存在する銀河であることが分かった。
そのうち一つは,年老いた銀河であることも明らかになったことから,年老いた銀河は遠方宇宙ではこれまで考えられてきたよりも多く存在する可能性が示唆された。一方で,初期宇宙に存在する赤い渦巻銀河や年老いた渦巻銀河の形成について疑問が新たに生じる結果となった。
研究グループは,今回の発見から,渦巻銀河形成の歴史や,ひいては宇宙の歴史全体の中で銀河の形態がどのように変化してきたのかについて,新たな視点を与えることができたのではないかとしている。