九州⼤学と理化学研究所は,修飾分⼦にカーボンナノチューブ(CNT)と相互作⽤をする部位を新たに導⼊する分⼦設計を開発し,従来技術よりも⼤きく⻑波⻑化させた⽋陥発光を⽰す⽋陥配置を選択的に形成させることに成功した(ニュースリリース)。
炭素原⼦のみで構成されるCNTの近⾚外発光は,バイオイメージングや通信技術などへの応⽤が期待されている。⼀⽅で,⼀般にCNTの発光効率は低く(1%未満),発光波⻑もチューブの構造で決定される制限があった。
最近,CNTに化学修飾を⾏ない部分的な⽋陥形成を⾏なうことで,発光効率が向上し発光波⻑が変化した新たな⽋陥発光を⽣み出せることがわかってきたが,新規近⾚外発光素⼦としてさらなる機能創出・性能向上を実現するためには,⽋陥構造を変化させて選択的に異なる発光波⻑を作り出すなどの新たな修飾技術の開拓が求められていた。
CNTの化学修飾では,チューブ壁⾯を構成している炭素原⼦と分⼦が新たに結合を形成する。その際,CNT中の炭素の状態変化(軌道の混成がsp2型からsp3型へと変換)が起きる。これにより,sp2型炭素の連続構造で構成されていたCNTの壁の⼀部に混成の異なるsp3炭素が⽋陥として導⼊される。
その結果,導⼊された⽋陥によって,CNTの電⼦構造を変換することができ、発光性の新たな電⼦準位が形成されることで,⽋陥発光の機能が⽣み出される。
最近,⽋陥発光の波⻑は化学修飾で導⼊されたsp3炭素同⼠の隣接配置の相対的な位置の違いが重要な因⼦となることが⽰されてきた。しかしながら,通常異なる修飾反応を⽤いて修飾CNTを合成した場合も⽋陥発光は類似の発光波⻑となっており,⽋陥構造をより⾼度に制御するための化学修飾技術を開拓することが求められていた。
研究グループでは,修飾分⼦の分⼦設計をもとに修飾CNTを機能化させる研究を⾏なってきた。今回その知⾒を応⽤して,修飾分⼦にCNTと積極的に相互作⽤するπ共役構造をもつ部位を置換基として導⼊することによって,従来観測されていた⽋陥発光(今回主に⽤いたCNTでは約1140nm)よりも⼤幅に⻑波⻑化した発光(1260nm)を選択的に創出した。
また,種々のπ共役系構造をもつ置換基の作⽤を検討することで,この方法が⻑波⻑の⽋陥発光を⽣み出すための分⼦設計指針として⼀般性があることを⽰し,新たな⽋陥構造制御技術を開拓した。
さらに,その⽋陥発光をより⾼輝度化(2.8倍)させることやクリックケミストリーを利⽤した⽋陥部位への他の分⼦の後修飾が⾏なえることも⽰した。この発⾒は,CNT上に任意の⽋陥構造を形成させるだけでなく,近⾚外光を利⽤した先端光科学技術の開発に貢献するとしている。