北大,光電子移動触媒反応の触媒サイクル全貌を解明

北海道大学の研究グループは,系統的な反応経路の探索により,Knowlesの光電子移動触媒による分子内ヒドロアミノ化反応の触媒サイクルの全貌を明らかにした(ニュースリリース)。

光電子移動触媒を用いたラジカル反応は,通常の熱反応では困難な化学変換を実現する方法として注目されており,現在も光電子移動触媒を用いた新規化学反応が開発されている。中でも,Knowlesらによって報告されたイリジウム光電子移動触媒を用いた分子内ヒドロアミノ化反応は,可視光照射によって炭素-窒素結合を形成する反応として注目されている。

一方で,このような化学反応では基質分子の結合組み換えを伴う反応過程と触媒・基質間の電子移動過程が競合するため,その反応メカニズムの理解は容易でない。これに対して,量子化学計算に基づく解析は,反応経路に沿った原子レベルでの描像を得ることができるため,その応用が期待されているが,遷移金属を含む光電子移動触媒分子は一般に80以上の原子を含むため,計算コストの観点からその適用は容易ではなかった。

研究では,基質の一重項基底状態及び二重項基底状態の電子エネルギーを触媒の酸化還元電位に基づき,エネルギーシフト法を用いて補正することで,触媒―基質間の電子授受と基質の反応過程を簡便に記述する手法を開発した。

この方法を用いることにより,92個の原子からなるIr錯体触媒とカウンターアニオン(PF6)の計算コストを削減し,基質分子のみの計算に基づいて反応経路及び電子移動経路を調べることが可能になった。

この手法に基づき,反応における結合組み換えの反応経路及び電子移動経路に対応する電子状態間の交差シームを人工力誘起反応法(AFIR法)に基づき系統的に探索し,交差シームによって複数の反応経路ネットワークをつなぎ合わせることで,この反応におけるエネルギー的に有利な経路を求めた。

反応メカニズムを解析した結果,この反応では,基質が還元される電子移動過程とプロトン移動過程が協奏的に進行することが明らかになった。さらに,交差シーム構造を系統的に探索した結果,生成物へと至る電子移動過程と反応物に戻る電子移動過程が競合しており,これらの反応経路の重要性が触媒の酸化還元電位によって変化することが,触媒によって反応収率が異なる要因となる可能性を示した。

この手法の利点は,全ての反応経路を基質分子のみの量子化学計算に基づいて行なうことができるため非常に効率的な点にある。さらに,この方法では,触媒分子を明示的に計算に含めないため,金属錯体やあらゆるサイズ・元素組成の分子を光電子移動触媒として用いる反応へと適用できる。そのため,この手法は,光電子移動触媒を用いた新規反応に対する理論的スクリーニングへの展開が期待されるとしている。

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