北海道大学の研究グループは,塗布可能な光波長変換材料で透明フィルムを開発し,その植物の成長促進効果を実証することに世界で初めて成功した(ニュースリリース)。
植物の成長の鍵となる光合成は,葉緑素のなかの光を集めるクロロフィルが吸収する赤色光が効果的であることが知られている。一方,エネルギーの高い紫外線は多くの生物にとって自身のダメージにつながることから,太陽光に含まれる紫外線を赤色光に変換する光波長変換材料が植物生産への応用に期待されている。
研究グループはこれまで,強発光性の希土類錯体の開発を行なってきた。中でもユウロピウム錯体は可視域に光吸収がなく紫外線だけを吸収し,赤色光に高効率で変換できることから,植物生産のための光波長変換材料に利用できると考えた。研究では,ユウロピウム錯体を塗布した透明な光波長変換フィルムを開発し,野菜と樹木の育成を行なった。
開発した光波長変換フィルムは発光性のユウロピウム錯体 Eu(hfa)3(TPPO)2と透明化剤TDMPPOの混合によって達成した。これらの混合溶液を市販の農業フィルムに塗布することで,容易にフィルム化することができるという。
このフィルムは可視光を遮らない透明性を持ち,紫外線照射下では赤色に強く発光し,太陽光の紫外線を赤色光に変換する。この光波長変換フィルムを野菜(スイスチャード)と樹木(カラマツ)の育成に適用したところ,水耕栽培で育成されたスイスチャードは,光波長変換フィルム下では日照時間の短い冬季において,成長に有意差が見られた。
その育成から約60日後のスイスチャードは1.2倍の草高,1.4倍の重量が確認された。カラマツの育成においても,光波長変換フィルム下で成長に有意差が見られ,1.2倍の苗高,1.4倍の重量が確認された。この成長促進は育苗期間の1年短縮に相当する効果だという。
光波長変換材料を使った植物育成はこれまでも報告されていたが,塗布型の光波長変換材料を使って,野菜と樹木の成長促進を実証したのは今回が初めてだとする。発光するイオン種を設計することにより,緑色や黄色などの光にも自在に変えることができるため,植物の種類に合わせた光波長変換フィルムの作製が期待できるとする。
この研究成果により,電力を必要とせずに太陽光の紫外線のみを可視光に変換できる。研究グループはこのことから,大規模なビニールハウス等に適用でき,農林水産業の生産性を向上することが期待されるとしている。