矢野経済研究所は,国内における完全人工光型植物工場市場を調査し,現況,参入企業の動向,および将来展望を明らかにした(ニュースリリース)。
それによると,2021年度の国内における完全人工光型植物工場の生産品目の90%以上とみられるレタス類の運営市場規模は,工場野菜生産者出荷金額ベースで前年度比159.8%の223億円となった。2022年度は,前年度比126.0%の281億円を見込む。
コロナ禍の中で,食品の衛生面や食の安全・安心に対して消費者の意識の高まりが継続している。植物工場産野菜は,袋詰めで販売され衛生的なイメージがあることや,露地野菜に比べて菌数が少ない点などが消費者に評価されている。
加えて,国際情勢の不安もある中で,農業生産や食料貿易などに係る状況の把握,平時からの安定供給の確保・向上,不測時の対応など,リスクの分析・評価を含め,食料安全保障の取り組みの重要性が高まる見通し。これに対し,一年を通した安定生産・安定供給と,品質管理・衛生管理が徹底された植物工場産野菜は解決の一助となる可能性があり,注目を集めているという。
業務用・市販用途別に需要をみると,業務用需要の割合が継続して伸長しているとする。業務用では,中食のカット野菜や生春巻き,外食チェーンのサラダや料理の付け合わせ,コンビニエンスストアのサラダやサンドイッチなどで需要が拡大している。
気候変動や天候不順の激化により,露地野菜の調達相場は変動が激しく,調達が年々難しくなっている一方で,植物工場産野菜は閉鎖環境下で栽培されることから,気候変動に左右されず生産量が安定して確保でき,価格や品質が一定であるため,評価を得ているという。
完全人工光型植物工場は周年を通して安定した需要があり,果菜類に比べて光の要求量が少なく,比較的栽培のしやすいレタス類の生産が主流となっている。一方で,イチゴ,ほうれん草など,より高付加価値で,有望な新品目が模索されている。
イチゴは,暑さに弱い作物で季節による出荷量の波が激しい一方,ケーキや菓子類などの用途で通年の需要が多く,気温が高い夏は海外からの輸入で需要を賄う傾向にある。従来は,完全人工光でのイチゴ栽培は採算性などのハードルが存在した。しかし,近年ではLEDの技術向上に加え,果菜類の栽培研究が進んだことから,イチゴの生産に参入する事業者が増加しているという。
ほうれん草については,大規模工場の生産計画が顕在化している。植物工場産ほうれん草の参入事業者が増加することで,生食用のみならず,冷凍ほうれん草などの用途へも利用が期待されるとする。今後は,現在の主な栽培品目であるレタス類に加え,ケールやほうれん草,ハーブ類,イチゴなどへの栽培品目拡大が見込まれている。
植物工場運営事業者では,日産1トン以上の大規模植物工場新設などの事業計画が顕在化しており,今後も市場は拡大傾向で推移すると見る。完全人工光型植物工場のレタス類の運営市場規模(工場産野菜生産者出荷金額ベース)は,2026年度には450億円に達すると予測する。