量子科学技術研究開発機構(QST),韓国基礎科學研究院・超強力レーザー科學研究団,独ドレスデン・ロッセンドルフ研究所は,超高強度レーザー装置「J-KAREN(ジェイ カレン)」から発生する光のノイズ成分の大幅な低減に成功し,これまで困難であった高強度場科学の実験を可能にした(ニュースリリース)。
J-KARENは,これまでレーザーシステムに様々な改良を加えて世界トップクラスの高強度・低ノイズを達成してきた。しかし,超短パルスレーザーを金属などの固体薄膜(=標的)に照射する実験では,光ノイズがレーザーパルスのピークに先んじて照射され,肝心のパルスのピークが到達する前に標的を破壊するという問題があった。
この光ノイズを取り除く手法の一つに,プラズマが鏡のように光を反射することを利用するプラズマミラーという技術がある。レーザーパルスを集光しながらガラスなどの光を透過する物質に照射すると,プラズマを作れない光ノイズはそのまま透過する。
一方でレーザーパルスは,強度が高いためパルスの立ち上がりでガラス表面をプラズマ化させる。その後,レーザーパルスは自身が作ったそのプラズマによって反射される。その結果,反射した光は光ノイズを含まないパルスだけになる。
このときレーザーパルスは,非常に短い時間(~フェムト秒)でガラスを鏡「プラズマミラー」に変化させ,レーザーパルスと光ノイズを超高速に切り分けるシャッターとして働く。
プラズマミラーを効率よく動作させるためには,プラズマの反射率やレーザーパルスの時空間分布等を考慮したうえでレーザーパラメータを最適化する必要がある。この条件は,元となるレーザー装置の性能によって大きく左右されるため,レーザー装置によって異なる。
研究グループは,J-KARENにおいてプラズマミラーシステムの性能を最大限に発揮するための性能評価実験を行ない,レーザー条件を最適化することで,光ノイズを100分の1に劇的に改善することに成功した。
今回,光ノイズの大幅な低減に成功したことで,これまで標的の破壊により困難であった実験が可能となる。その一つに理論的に高い効率で高エネルギーまでイオンを加速可能なレーザーの圧力を使った放射圧加速がある。この放射圧加速を用いると,従来の線形イオン加速器と比べて1千万倍以上の加速勾配を作ることが出来るため,加速器の大幅な小型化につながると期待される。
研究グループは,さらに極めて大きな加速勾配を実現することで,従来の加速器では難しい短寿命の原子核の加速も可能となり,新たな原子核探索への応用も期待されるとしている。