東京大学の研究グループは,結晶核形成(結晶の誕生)や結晶の成長には,液体・結晶界面の構造が重要であることを初めて示した(ニュースリリース)。
液体を融点以下の過冷却状態にしておくと,一定時間経過後に結晶核が形成され,その後,結晶は成長していく。この現象は古典的な結晶化理論によって説明されると考えられてきたが,10年ほど前,結晶化しやすい物質の場合,過冷却液体の中には結晶の構造と同じような対称性を持つ結晶前駆体が熱的なゆらぎとしてできたり消えたりしていることが明らかになった。
また,この結晶前駆体は結晶の対称性と近い構造を持っているために,その結晶前駆体の中に結晶核ができると結晶との界面エネルギーが低くなるため,結晶前駆体の中に結晶核が生まれる可能性が高くなることが分かり,結晶前駆体が形成されやすい物質では結晶核形成が容易に起きると判明した。
しかし,このような結晶前駆体構造が結晶成長にどのような影響を与えるのか,未だ解明されていない。この問題を研究するために,研究グループは,分子動力学シミュレーションに新たな工夫を施した。
具体的には,液体中に自発的に形成される結晶前駆体を,液体のほかの部分に影響を与えることなく,周期的に消滅させる方法を開発した。この周期を調整することにより結晶前駆体の量を制御することで,結晶前駆体が結晶核形成ならびに結晶成長にどう影響を与えるか研究を行なった。
その結果,過冷却液体中の結晶前駆体構造をこの方法で減少させると,結晶核形成が大幅に抑制され,さらに結晶成長も劇的に遅くなった。前者の結果は,結晶核形成は従来考えられてきたような均一な液体からランダムに生まれるのではなく,液体の中に既に存在している結晶と相性のいい構造を持った領域から生まれやすいことを意味する。
また後者は,結晶成長過程において結晶・液体界面に形成される結晶前駆体の存在が結晶成長を促進していることを意味する。このことは,従来の理論でその重要性が認識されていなかった過冷却液体の構造の秩序化とそれに伴う界面エネルギーの低下が,結晶核生成・成長の両過程において重要な役割を果たすことを示しており,古典的な結晶成長理論に重要な修正を迫るものだという。
さらに,さまざまな液体に対し修正の度合いを評価したところ,構造秩序化が発達しやすい液体ほど,従来の理論の予測からの解離が大きいことが明らかになった。これらは,結晶成長速度論の基礎的な理解に新たな知見を与えるものと期待される。
結晶化や結晶成長の制御の理解は,半導体産業におけるシリコンの結晶化など,さまざまな産業分野において重要であり,研究グループは,大きな波及効果が期待されるとしている。