名古屋大学,東京大学,神戸大学が参加する,米国・欧州・日本を中心とした国際共同実験XENONコラボレーションは,最新の暗黒物質探索実験であるXENONnT実験における最初の成果を公表し,2020年に前身実験のXENON1T実験が報告した低エネルギーでの電子反跳事象の超過現象は有意に確認されず,その結果未知の物理現象に対して非常に強い制限を得た,と報告した(ニュースリリース)。
暗黒物質の正体を明らかにすることを主な目的とするXENONnT実験は,検出器に有感体積としておよそ6トンの高純度キセノンを持ち,キセノンと入射粒子との相互作用により生じた光や電子を観測する仕組みになっている。
この実験では,キセノン内部,検出器の部材,あるいは外部からの放射線が背景ノイズ源となるが,その中でも特にラドンは最も削減が難しく,XENONnT実験が目指す究極の感度達成のための最大の関門となっていた。
研究グループはXENONnT検出器の建設にあたり,ラドンの発生源となる放射性不純物を検出器部材が極力含まないように徹底的な部材選定を行なうとともに,キセノン中に含まれるラドンを常時除去するキセノン蒸留システムを新たに開発し,検出器中のラドンをこれまでになく低いレベルに抑えることに成功した。
2020年,XENONコラボレーションはXENON1T実験で低エネルギー電子反跳事象の超過を観測したと報告した。この超過は,太陽アクシオン,ニュートリノの異常磁気モーメント,アクシオン型粒子,暗黒光子など様々な新物理現象に由来する可能性が考えられたことから,議論が巻き起こった。
今回XENONコラボレーションは,後継であるXENONnT検出器において,背景ノイズをXENON1T検出器の1/5に改善した高感度探索を行ない,その最初の結果を報告した。今回,低エネルギー電子反跳事象の有意な超過は観測されなかったことから,XENON1T実験で報告された事象超過は,仮説の一つとして当時も考えられていた検出器中の残留トリチウムの可能性が高いことが示唆された。結果として,上記に挙げた様な電子反跳を起こす新物理現象に対して,非常に強い制限を与えることになった。
今回取得した初期データは1トンの液体キセノンを1年間観測したことに相当する統計量を上回る。このデータを用いて,暗黒物質の最も有力な候補の一つであるWeakly Massive Interactive Particles(WIMPs)に対する解析も進められているという。研究グループは今後数年間をかけて更なるデータ取得を続け,より高い感度で新たな物理現象の探索を行なうとしている。