東大ら,暗黒物質の素粒子的な性質に強い制限を付与

東京大学,高エネルギー加速器研究機構,独マックスプランク物理学研究所(MPP)らは,暗黒物質起源の高エネルギーガンマ線を探索,暗黒物質になりうる新粒子として有力な超対称性粒子が予言するテラ電子ボルト以上の質量領域に世界で初めて到達し,暗黒物質の素粒子的な性質に強い制限を与えた。また,宇宙初期に暗黒物質がどのように作られたかについても従来のシナリオに一石を投じた(ニュースリリース)。

地上ガンマ線望遠鏡を用いた暗黒物質探索では,暗黒物質の粒子同士が対消滅した際に生じる光子を探す。暗黒物質の質量は,ギガ電子ボルトからテラ電子ボルトの範囲に存在すると予想されている。これらが対消滅した際に生じる光子も同様のエネルギーを持つことになり,超高エネルギーガンマ線で探せる領域となる。

テラ電子ボルト以上の高エネルギーの粒子は地上で作ることが難しく,予想される信号数も少なくなる。一方,宇宙からのガンマ線を観測するチェレンコフ望遠鏡では100テラ電子ボルト程度まで感度を持つ。

暗黒物質同士の対消滅起源の光子を探す際「暗黒物質の衝突頻度」が重要な手がかりとなる。一方,天の川銀河中心は最も有力な暗黒物質の観測天体とされつつも,暗黒物質の空間分布は決着がついていない部分があり,ガンマ線での暗黒物質探索ではしばしばその不定性が課題とされてきた。

研究では高い暗黒物質への探索感度を保ちつつ,そのような課題を解決する研究方法を提案し,観測データに適用することに成功した。研究グループは,スペイン・カナリア諸島のチェレンコフ望遠鏡MAGICを用いて2013年~2020年まで天の川銀河中心を観測してきた。

天の川銀河中心は星が密集する一方,見えない暗黒物質も高密度で存在する。この領域の暗黒物質同士が衝突し,対消滅した際に生じるガンマ線,研究では特に信号の形状がラインガンマ線と呼ばれるものになる場合に注目した。これは暗黒物質特有の信号で強い証拠となる。また,理論的な不定性に対しては複数の空間分布を想定して解析した。

信号が検出できなかった場合,対消滅の頻度に対して少なくともこの値よりは小さいだろうという “上限値”を計算する。これにより,暗黒物質の正体として有力視される未知の粒子,超対称性粒子の検証を世界で初めて達成した。今回の研究では世界で最も小さい対消滅断面積まで探索し,上限値をつけた。

研究グループは今回の結果が,他の方法では難しい暗黒物質探索の新手法として有効であることが実証された,チェレンコフ望遠鏡によるユニークな結果だとしている。

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