東京都立大学の研究グループは,有機物のウィスカー結晶が,発生した気泡に追随して形成されることを発見し,不純物を混入することで,ウィスカー結晶の抑制に成功した(ニュースリリース)。
マクロの結晶形態(モルフォロジー)は周囲の環境によって変化し,条件によっては,ウィスカー結晶とよばれる細いヒゲ状の結晶が成長することがあり,ワイヤーとしての応用が期待されている。
一方で,絶縁体で囲ってあるにも関わらず絶縁体中を成長してしまい,絶縁破壊を起こすこともあるため,ウィスカー結晶の形成メカニズムを解明し,制御することが望まれている。
研究グループは,O-テルフェニル(OTP)とサロールという有機物の結晶成長に着目し,偏光顕微鏡を用いてその結晶成長過程を観察した。結晶が成長し始めると,結晶成長面で気泡が発生し,その気泡が移動し,それに追従する形でウィスカー結晶が成長する様子が観察された。
その気泡の正体は「有機物に溶けていた空気」と「OTPやサロールの気体」という2つの可能性が考えられる。実験の結果,結晶成長に発生した気泡はOTPやサロールの気体である可能性が高いと考えられたが,間接的な結果でしかないため,将来,直接調べることが重要だとしている。
気泡があるとなぜウィスカー結晶が成長するのかについて調べたところ,結晶成長するためには必要な分子が,液体からではなく,気泡から供給されていることがわかった。一方,気泡は小さくならず,結晶への供給量と液体からの蒸発量がつりあっていることがわかった。
液体から気泡に蒸発し,気泡から結晶へ蒸着しながら結晶成長していることがわかったが,結晶成長は液体から結晶に供給されるのが一般的なため,今回のウィスカー結晶の成長過程は,通常と異なる結晶成長機構であるといえる。
研究グループは,ウィスカー結晶を抑制するためには気泡発生を抑えれば良いと考えた。気泡発生が結晶成長による密度低下が原因であることから,アセトンのような有機溶媒を混入することでキャビテーションを抑えられると考えた。トルエンもしくはアセトンを1%溶かした系では気泡が発生せず,ウィスカー結晶が形成されなかったことから,少量の不純物を入れることで,結晶成長機構を制御できることがわかった。
このメカニズムを利用して,ウィスカー結晶を制御できる可能性がある。また,意図的に気泡を混入することで,ウィスカー結晶が形成できなかった物質でもウィスカー結晶を作ることが可能になるかもしれない。
研究グループは,さらに発展した研究を行なうことで,将来ナノワイヤーの作成など様々な応用が期待できるとしている。