東大ら,矮新星のガスを可視光とX線で高速同時観測

東京大学と理化学研究所は,代表的な矮新星(白色矮星と通常の恒星からなる近接連星系)として知られるSS Cygに対しサブ秒分解能の高速同時観測を実施し,SS Cygの可視光とX線の明るさの時間変動に高い相関があることを発見した(ニュースリリース)。

宇宙には降着円盤を持つ天体が多数存在する。降着円盤は中心星へガスが落下する際,重力と遠心力が釣り合うことで形成され,ガスは中心星への降着の過程で摩擦熱が放射エネルギーに変換されることで電磁波(光)を放射する。

特に中心星が白色矮星や中性子星,ブラックホールなどのコンパクトで重い天体の場合,ガスは約1000万度の高温プラズマ状態となりX線を放射する。一方,円盤の外側は約3000度であり,可視光を含むより長い波長の光を放出する。

中心星への降着は突発的に起こるため,円盤から来る光の量は時間変化する。突発的な降着が起こるメカニズムの解明には円盤から来る光の時間変動の多波長同時観測が必要となる。

矮新星は白色矮星の周囲に降着円盤を持つ。SS Cyg(はくちょう座SS星)は代表的な矮新星して知られており,一か月程度の周期で増光期と静穏期を繰り返す。2019年8月以降,一年以上にもわたり静穏期の明るさが可視光で2.5倍,X線で10倍高い状態が,SS Cygの観測歴史の中で初めて続いた。

この増光により高いS/N比が期待できることから,研究グループは,東京大学木曽シュミット望遠鏡に搭載された可視光動画カメラTomo-e Gozenと国際宇宙ステーションに搭載された米NASAのX線望遠鏡NICERを用いた観測を,2020年9月から11月にかけて実施した。

その結果,SS Cygの可視光とX線の明るさの時間変動に高い相関関係があることを発見した。これは,白色矮星の近傍に分布する高温ガス(プラズマ)から放射されるX線が,周囲の降着円盤や伴星を広く照らしているために引き起こされたと考えられるという。

高温ガスの状態が変化すると,高温ガスが放射するX線により照らされている降着円盤や伴星の表面温度も変化する。これに伴い,降着円盤や伴星の可視光での明るさも同期して変化するが,過去のSS Cygの観測では可視光とX線の明るさの変動の相関は高くなかった。

今回の発見は,SS Cygの高温ガスの分布が最近になって幾何学的に厚く拡大したため,周囲の降着円盤や伴星を広く照らせるようになったことを示唆するもので,光度変動の相関解析から降着円盤の幾何学構造に制限をつけられることを示した。

研究グループは今後,更に多波長に拡張して高速同時観測を行なうことで,降着円盤のより詳細な構造の解明につなげていくとしている。

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