デンマーク コペンハーゲン大学らの研究グループは,ハッブル宇宙望遠鏡やすばる望遠鏡などの宇宙・地上望遠鏡を用いて,地球から約131億光年かなたの遠方宇宙に,塵に覆われた非常にコンパクトな天体を発見した(ニュースリリース)。
ビッグバンに近い初期の宇宙で太陽の数億倍もの重さの超巨大ブラックホールが,宇宙誕生後の短い期間でどのように誕生・成長したのかは謎となっている。
理論的には,まず爆発的な星形成を起こしている活発な銀河のガスや塵に覆われた中心部で,ブラックホールが周囲の物質を飲み込んで急成長を始め,その過程でブラックホールの降着円盤から発生する強力なエネルギーが周囲のガスや塵などの遮蔽物を吹き飛ばし,最終的に超巨大ブラックホールとその降着円盤が姿を現すと考えられている。
クェーサーは,ガスの摩擦で光る降着円盤が,非常に明るく輝くコンパクトな天体として観測される。このような明るいクェーサーの観測から超巨大ブラックホールの存在が知られてきた。
観測的には,爆発的星形成銀河と明るいクェーサーは,ビッグバンからわずか7-8億年後の宇宙で発見されている。しかし,超巨大ブラックホールの急成長の謎を解き明かす鍵となるような過渡期の天体は,これまでに見つかっていなかった。
研究グループは,ハッブル宇宙望遠鏡の大量のアーカイブデータを再解析することにより,爆発的星形成銀河と明るいクェーサーを繋ぐ天体「GNz7q」を発見した。電波望遠鏡を用いた分光観測から,GNz7qはビッグバンからわずか7億5000万年後に存在していたことが判明した。
この天体の電磁波スペクトルの特性は,宇宙初期の爆発的星形成銀河の中心部で,急速に成長しているブラックホールの最初の観測例であることを示唆しており,宇宙初期で見つかっている超巨大ブラックホールの先駆体だと考えられるという。
さらにGNz7qが発見されたのは,最もよく研究されていた天域の中心であり,このような天体の出現率は,これまで考えられていたよりもかなり高いかもしれないという。研究グループは今後,類似の天体を系統的に探索し,それらの天体をジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の分光装置で詳細に調べたいとしている。
また,すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラHyper Suprime-Camを用いた観測でも宇宙初期に大量のクェーサーが見つかっており,アルマ望遠鏡などの望遠鏡を組み合わせた多波長での詳細な解析で,GNz7qのような天体が更に見つかり,急速に成長しているブラックホールが実際にどの程度存在していて,宇宙初期での超巨大ブラックホールの急成長を支えていたかについて,統計的にも調べることが可能になっていくとしている。