理化学研究所(理研)は,従来の100倍以上のピーク出力を持つギガワット級の「アト秒レーザー」の開発に成功した(ニュースリリース)。
研究グループは,「光シンセサイザー光源」を用いたアト秒レーザーの高出力化手法の開発に取り組み,2020年にはアト秒レーザーを発生するための励起光となる2.6テラワットのピーク出力を持つ高強度光シンセサイザーの開発に成功している。
今回,光シンセサイザーからの出力パルスをルーズフォーカス法に従って,4mの長焦点光学系でセル内に充填されたアルゴンガスに集光し,アト秒パルス(高次高調波)を発生させた。
その際,アルゴンガスの媒質長を10cmまで長くし,またガス圧力を調整して最適位相整合技術により発生条件を65エレクトロンボルト(eV)付近に最適化することで,最大で0.24マイクロジュールまでアト秒パルスを高出力化した。
得られたアト秒パルスの時間幅を,アト秒ストリーク法により評価した。アト秒ストリーク法はこれまで1kHz以上の高繰り返しレーザー光だけで使用されてきたが,今回,光シンセサイザーにおける電場の安定化技術を用いることで,10Hzの低繰り返しレーザー光でもアト秒ストリーク法による評価が初めて可能になり,従来のアト秒レーザー光源と比較して100倍以上の高出力化を実現したことが示された。
一方,光シンセサイザーの特性を利用することで,アト秒パルス(高次高調波)の発生光子エネルギーを制御することができる。光シンセサイザーの条件を変えて発生したアト秒パルスのパルス波形を調べたところ,高調波スペクトル波形に対応して,アト秒レーザーのパルス幅が240アト秒から272アト秒に変化した。
さらに,2つの高調波スペクトル波形を光シンセサイザーで数時間にわたり交互に発生させ,アト秒ストリーク法による測定を繰り返したところ,3アト秒以下のパルス幅変化でアト秒レーザーのパルス波形を再現することにも成功した。この結果は,開発した高強度光シンセサイザーが長時間にわたって極めて高い発生電場再現性を持つことを意味する。
研究グループはこの成果により,吸収分光法などの基礎科学分野に利用が制限されてきたアト秒レーザーを,微細加工やイメージングなどの光学分野で利用することが期待できるという。また,励起レーザーの電場制御を用いたアト秒波形の可変化は,利用対象に応じて最適化されたアト秒レーザー波形を供給する手法して重要な役割を果たすと期待できるとしている。